神奈川のノーベル賞候補 新春インタビュー(3)

細野秀雄東京工業大教授

 ■鉄系超電導を発見「現代の錬金術師」

 金属を一定の温度以下に冷やしたとき、電気抵抗がゼロになる「超電導」。12年後に開業し、東京と名古屋を40分で結ぶリニア中央新幹線でも使われる現象の研究で世界をリードするのが、東京工業大の細野秀雄教授(61)だ。研究対象は超電導にとどまらず、ナノ(100万分の1ミリ)レベルで物質の構造を組み替えるなどして、画期的な新素材をいくつも開発。「現代の錬金術師」と評する声もある。

 ◆新たな鉱脈

 昭和57(1982)年に28歳で名古屋工業大助手となってから、30年以上にわたって材料研究を続けてきた。平成20年、従来の常識を覆し、鉄を主成分とした化合物(鉄系物質)でも高い温度で超電導となることを英科学誌「ネイチャー」に発表。それまで研究されてきた銅系物質(セラミック)とは別に、実用化を視野に入れて超電導物質を探す新たな鉱脈として、国際競争に火を付けた。

 細野さんはもともと、超電導専門家ではなかった。セメントの原料から金属を作ったり、スマートフォンに使われる透明な半導体物質を開発するなど、新素材の研究に打ち込んでいた。

 鉄系物質が超電導となることを発見したのは、半導体に磁石の性質を持たせる研究をしていたときだった。鉄を主成分とした化合物に含まれるイオンの種類を置き換え、電気的性質を変えようとしたところ、超電導性質を示したという。

 「鉄系高温超電導物質」の発見を機に、毎年ノーベル物理学賞候補として挙げられるが、細野さんは「受賞を意識したことなど全くない」と軽く受け流す。

 「鉄それ自体と、鉄の化合物では性質が異なる。だから、仮に鉄が超電導にならなくても、鉄の化合物は超電導になりうると思っていた。なぜこんなに驚くのかと不思議だった」

 発見当時の周囲の反応が意外だったと振り返る。

 ◆エネ問題解決の一歩

 リニアモーターカーは、超電導状態のコイルに電気を流して、強力な磁力を発生させることで浮上する。また、発電所から需要先へ届くまでに、電力の一部は送電中の電気抵抗で失われており、「超電導送電」の実現はエネルギー問題の解決に向けた大きな一歩になると期待される。

 超電導を実現するには、物質を極めて低い温度まで冷やさなければならない。鉄系での高温といっても、20年の発表時はセ氏マイナス230度(絶対温度43度=43K)という、一般感覚では極めて低い温度だ。

 研究が進み、現在は鉄系物質で超電導が起こる温度はマイナス218度(55K)まで上昇。より高い温度を目指し、欧米や中国などのグループと競争を繰り広げている。

 また、鉄系物質はそれまでの銅系物質よりも加工しやすく、普及に有利な条件を備えているのだ。

 ◆発想のジャンプ

 「まだ人生を回顧したくはない」

 現在も研究の第一線で走り続ける細野さん。産学協同での研究にも積極的で、昨年12月には、旭硝子の中央研究所(横浜市神奈川区)と協力して開発した「高温にするとゴムのように伸び縮みするガラス」を発表した。

 細野さんは「材料研究者としては、テクノロジーのブレークスルーが世の中の問題解決につながると考える」と話し、「そのためには発想のジャンプが必要。将棋の駒に例えると、桂馬の動きのようなもの」と、持論を展開する。

 「材料研究を通じて世の中に役立ちたい。多くの企業が集まる神奈川では、実用化に向けた産学協同の研究を進めやすい」

 地の利も説く細野さんは、大和市の自宅から、同大すずかけ台キャンパス(横浜市緑区)にある研究室に通う神奈川県民。

 「神奈川は丹沢の山や湘南の海をはじめとして起伏に富み、さまざまな刺激がある良い所」と話し、豊かな地元・神奈川の環境の中、新たな世界を拓(ひら)く発想を育ませている。

 連載は小野晋史が担当しました。

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 ◆「科学少年」が化学の道へ

 埼玉県川越市で、農業を営む両親の下、4人きょうだいの長男として生まれた。

 小学生のときには塩酸の中にブリキを入れ、水素が発生する様子を観察して面白がる「科学少年」だった。

 化学の世界に特に興味を抱いたのは中学時代。「世の中の物質はこんなにたくさんあるのに、元素は100個ぐらいしかないのか」と驚いたのがきっかけだ。

 クラブ活動の科学部では、水の電気分解で水素と酸素を発生させる観察にのめり込んだ。水に1・5ボルトほどの電圧をかけるだけで、液体から気体へ、火を消す物質から火を燃やす物質へ変化することに、化学への興味が膨らんだ。

 高校生になると、世界初の合成繊維を発明した米国の化学者、ウォーレス・カロザースの伝記「ナイロンの発見」に出会った。化学の成果が新素材を生み、産業構造や人々の生活を変えたことに感動したという。

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 ▽座右の銘 「オール・オア・サムシング」。一生懸命やれば何か見つかるので、ナッシングとは言わない。

 ▽猫 大好き。猫ほどかわいいものはない。愛猫の名前は「ルイ」。

 ▽読書 最近感銘を受けたのはトーマス・ヘイガー「大気を変える錬金術」。

 ▽好きな食べ物 豆腐。

 ▽落語 立川談志が好きで、よく聞いた。

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【用語解説】超電導

 特定の物質を極めて低い温度に冷やすと、電気抵抗がなくなる現象。電気の流れが妨げられないため、一度流れた電気は永久に流れ続ける。超電導物質は永久磁石の上で浮上する特徴も持ち、1911年、オランダの科学者が初めて確認した。

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