演技が終わりに近づくにつれ、大きくなっていく会場の拍手。その中で羽生の息は上がり、いつも以上に汗が噴き出した。「体調が悪い中で、ちょっと大変だった」。リンクを降りる前から膝に手を当てるほど体力は限界だった。
フリーでたたき出した得点は192・50点。SPに続くトップで、エースの系譜を受け継いだ高橋大輔以来となる3連覇を達成。絶対王者へ駆け上がる20歳は、どんな状況でも負けない強さを身につけていた。
「ミスを最小限にとどめられた」と振り返った演技だが、ベストとは程遠かった。
開始から本来のスピードがなく、冒頭の4回転サルコーでいきなり転倒。続く4回転トーループを成功させたところで浮上の足掛かりをつかんだ。そこからは大きなミスなく、4分半を滑り切った。
すべての演技を終え、初めて認めた大会期間中の体調不良。疲労が蓄積し、前日もSPを滑った後に腰などを入念にマッサージして回復に努めた。
五輪金メダルに世界王者、GPファイナル連覇とこの日の全日本王者防衛。羽生はタイトルを獲得した瞬間から「もう過去のもの」と割り切る。「プライドを守りたい気持ちはあるけど、そのために滑っているわけではない。スケートが好きだからやっている」。純粋な感情こそが、羽生の強さの源だ。(田中充)