アフリカの油田からアメリカの核施設に至るまで、国家の裏方に立ち世界の治安を維持してきた最大の民間軍事会社G4Sの実態とは?
Text: William Langewiesche
Photos & Illustrations: Sean Mccabe
Translation: Ottogiro Machikane
治安の維持が政府の手に余るとき、それを肩代わりしてくれる民間企業がある。 アフリカの油田からアメリカの核施設に至るまで、国家の手の及ばない空白を埋めてきたのが世界最大の民間軍事会社G4Sだ。 120カ国に62万人を展開し、イギリス軍の3倍の規模を誇る巨大ビジネス。 US版『ヴァニティ・フェア』の記者が、南スーダン共和国でG4Sが展開する危険な任務に密着した。
All that remained of the carnage in Souk Sitas was a small crater and some bloody shoes.
市場の惨劇の跡に残されていたのは、砲弾の炸裂穴と血まみれの靴ばかりだった。
タンザニアの高原の青い瞳のごとく湖水をたたえたヴィクトリア湖。そこから流れでるナイル河は、ウガンダ、スーダン、エジプトを貫いて北へと向かい、地中海にそそがれる。白ナイルと呼ばれるこの大河の上流域で2011年に分離独立したのが、世界でもっとも新しい国家、南スーダンだ。その首都ジュバはいまだ騒乱の中にあり、兵士に準じて治安維持に当たる男たちが欠かせない。
49歳のピエール・ボイジーもそんな男のひとりだ。白くなりかけたひげを蓄えたアフリカーナで、元は南アフリカ軍最年少の大佐。兵站部門のエキスパートだったボイジーはいま、民間軍事会社(民間警備会社)G4Sの一員として、現地で仕事を請け負っている。
除隊後に手がけた寝具の販売が成功し、商売は軌道に乗ったが、家庭は崩壊寸前だった。家族のために彼は会社を売却する。そんな父の思いを娘は抱き止めたが、妻は振り向いてくれなかった。ボイジーは昔なじみの稼業に逆戻りし、カダフィ政権崩壊後のリビアで、ついでコンゴ東部の紛争地域で武器弾薬を探す危険な仕事を続け、現在はここ南スーダンで、地雷原の地図作りや遺棄された武器弾薬の処分という任務を、国連の委託を受けたG4S社の下で行っている。
G4Sはロンドン近郊に本社を置き、株式も上場している。世間での知名度は高くないが、世界120カ国で事業を展開し、従業員数はじつに62万人を上回る。あのウォルマートと、台湾の電子機器生産企業フォックスコンにつぐ、世界第3位の民間雇用主という地位を得たのは最近のことだ。それほどの巨大企業が警備業の会社だというのも、いかにもこの時代に似つかわしい。G4Sスタッフの大半はただの警備員だが、ボイジーのような軍事の専門家が命を受けて危険地帯に赴く例もますます増えている。
赤道地帯のアフリカでテントに寝泊まりし、泥にまみれるこの仕事は49歳のボイジーには正直きついが、月1万ドルで6カ月更新の契約には社会的使命の高さも含まれていると感じている。2013年の秋が終わり、乾期が始まる頃にジュバの支社から彼が受けたのは、首都西郊で地雷を除去する任務だった。
ピエール・ボイジーのチームは総勢7人。地雷除去要員が4人と、運転手1人、地域住民との交渉係が1人、そして衛生兵に相当する者が1人だ。その衛生兵はジンバブエ人だが、残り全員が、現在ではG4S社の指揮を受けているスーダン人民解放軍(SPLA)の現役兵士だ。年代物のトヨタ・ランドクルーザー2台がチームの足で、うち1台はストレッチャーを後部に収容する救急車仕様に改造してある。
ジュバはナイル河に面した都市だが、道路は未舗装で、上下水道も送電網もない。市街地から4マイル走ったところで、ボイジーの乗るランドクルーザーが故障した。無線で救援を要請すると、無線係がピンクのスーツにネクタイといういでたちでやってきた。メカニックを呼んであるからとこの男は告げたが、到着がいつになるかはまた別の問題。ボイジーもわざわざ訊ねはしなかった。道ばたに腰かけて待つこと4時間、無線係からようやく連絡が入る。聞くと話は別件で、市街地の市場で大規模な爆発があり、武器弾薬が散乱している。国連からG4S社に要請があり、現場に急行してもらいたいという。ボイジーはわかったとだけ告げ、救急車仕様のランドクルーザーに全員で乗り込んだ。