阿比留記者が行く

埼玉5区 坂の上に雲はありやなしや

 こう訴える枝野氏の表情は険しかったが、演説後、支援者らに囲まれると笑顔になって応えていた。

 くしくも、枝野、牧原両氏は作家、司馬遼太郎氏の作品を愛読する。枝野氏は自著などで、明治維新から日露戦争にかけて飛躍していく日本を描いた司馬氏の「坂の上の雲」を引き、現代の日本社会について「坂の上にもう目指すべき雲はない」と説く。

 もはや経済成長は困難との認識の上で、「一億総中流社会」を建て直すというのが持論だ。だが、経済成長のないまま再分配機能を強化しても、それは「貧しい社会主義社会」が実現するだけではないのか-。

 一方、安倍首相は29年4月の消費税再増税までに経済を安定成長軌道に乗せると明言し、「景気回復、この道しかない」と訴える。

 「(楽天家たちは)前をのみ見つめながらあるく。のぼってゆく坂の上の青い天にもし一朶(いちだ)の白い雲がかがやいているとすれば、それのみをみつめて坂をのぼってゆくであろう」

 司馬氏は「坂の上の雲」のあとがきにこう記している。埼玉5区は、日本がこの先「輝く雲」を探して坂を上っていくのか、それとも雲はすでにないとみなして別の道を歩むのかを占う重要な意味合いを持つ。

会員限定記事会員サービス詳細