関西の議論

「不便は生活を豊かにする」? 「素数ものさし」が大ヒット 〝不便益〟研究する科学者集団の狙いとは

 もともと川上教授は大学院でシステム工学を学び、世の中を便利にするための研究に取り組んでいた。ところが、助教授時代に恩師の教授から「これからは便利にすることだけを考えていてはだめだ」と指摘された。衝撃を受けたが、よく考えると「その通り」と感じるようになり、不便益の発想が芽生えた。

 平成18年度には正式に研究費の予算を獲得し、有志による研究所としてスタート。研究会の開催やシンポジウムでの講演、論文発表など、幅広い活動を展開している。

素数ものさし、わずか数日で…ツイッターでも話題

 これまでの最大のヒット作は、研究所オリジナルの不便益グッズとして開発した「素数ものさし」だ。

 その名の通り2、3、5、7…といった素数(1とその数でしか割り切れない自然数)の目盛りしかないものさし。昨年3月から京都大キャンパスの生協などで販売したところ、使いにくさが逆に受けて一時売り切れになるほど人気を博した。

 一昨年9月に開催されたワークショップで大学院生が出したアイデアをもとにして、研究所のメンバーがデザイン。当初、売り出した千本はわずか数日でほぼ完売し、しばらく品薄の状態が続いたという。素数ものさしの利点について、川上教授は「あえて不便なものを使うことで得られる楽しさがある」と説明する。

 例えば、4センチを測るためには7センチと3センチの目盛りを使うといった工夫が必要だ。インターネットの短文投稿サイト「ツイッター」などでは、「これ面白い」「頭の体操になりそう」「使い道はないが、ほしい」と話題になった。

 川上教授は「便利なモノが良いとはかぎらないことを理解してもらうきっかけになればうれしい」とした上で、「予想以上の人気で驚いたが、不便なだけに自分なりの使い方を見つける面白さがあると思う」と指摘している。

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