平成17年、日本電産の関連会社の社員による不祥事が問題になった。通常なら当然、解雇処分だ。しかし、社長の永守重信は問題の社員に以前から目をかけていた。解雇の踏ん切りがつかない永守に、副社長の小部(こべ)博志は迫った。
「一度特例を作ると組織の規律は保てない」
学生時代から常に頭が上がらなかった親分に対する諫言(かんげん)は、小部の覚悟の表れだ。それが会社のため、ひいては永守のためになると小部は信じていた。
ワンマン経営者である永守は、ややもすれば社内で誰も異なる意見を言えなくなる危険がある。だからこそ、ブレーキ役が欠かせない。永守は小部を手ばなしで評価する。
「彼なくして今の会社はないわ。成功している人の裏には、必ず番頭がいる。今の時代では代表的な番頭や」
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永守には印象に残っている小部の言葉がある。「『お前なんかいらん』と言ったとき、小部に『私が辞めたら困るのはあなたですよ』と言われ、ハッとした」と振り返る。