横溝正史の恩人に光 倉敷であすからイベント「巡・金田一耕助の小径」

 日本を代表する推理小説作家、横溝正史(1902~81年)が戦争中に疎開していた倉敷市真備地区で22日から、イベント「巡・金田一耕助の小径」が繰り広げられる。6年目の今回は横溝の恩人で「獄門島」など名作の誕生に関わった元教員、加藤一(ひとし)さん(1909~95年)に光を当てる。巨匠との友情を取り上げた特別展も開催される。

 横溝は昭和20~22年、倉敷市と合併前の真備町が発足以前の岡田村に疎開。極度の乗り物酔いのため、小説の題材集めに遠出することはなく、近所の住人との酒席で聞いたムラ社会の因習などから想像力をふくらませ、創作活動に取り組んでいた。

 名探偵・金田一耕助が初登場する「本陣殺人事件」は21年、疎開中に発表。舞台は隣接する旧宿場町の川辺村(当時)と設定され、惨劇の現場の描写には疎開宅を思わせる記述も残る。

 創作に最も影響を与えたのが加藤さんだった。加藤さんは鍾乳洞のある新見市や笠岡市沖の真鍋島に勤務経験があり、その話が「八つ墓村」「獄門島」などの後の大作の誕生に大きなヒントを与えたとされる。

 大の読書家だった加藤さんは初期の横溝作品も読んでおり、互いに親近感を強めたとみられる。横溝を自転車に乗せ、村外の散髪屋に送迎した思い出も横溝亡き後の追悼文集に紹介されている。

 横溝が帰京後も加藤さんとの親交は続き、昭和45年1~10月には「横溝正史全集」(講談社刊)の全10巻が加藤さんに贈られた。各巻とも表紙裏に直筆のサインが入れられていた。金田一マニアとして知られる笠岡市職員の網本善光さん(54)は「加藤さん抜きで、金田一シリーズはなかったと複数の手記で読んだ。その恩恵の思いは加藤さん宛の書簡からも明白」と言い切る。

 倉敷市は今年度の「巡・金田一-」(22日~来年1月25日)で特別展「横溝正史と疎開時代の恩人、加藤一」を同疎開宅で開催。同全集など関連書物(非売品含む)を中心に約20点を展示する。

 加藤さんの息子の嫁、紀久恵さん(75)は「義父からもっと秘話を聞き出しておけばと、少し心残り。横溝先生からの贈り物は家宝として大切にしたい」と話している。 

 「巡・金田一-」初日の22日には「1000人の金田一耕助」を開催。ファンが金田一や作品の登場人物に扮し、同疎開宅を目指して真備地区を行進する。23日には横溝作品の論文発表会など、期間中に関連行事が予定されている。

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