日本の大店(おおだな)は、かつて主(あるじ)とそれを支える番頭とが繁盛のカギを握った。経営のプロがもてはやされる現代でも、経営者を支える番頭の存在は不可欠だ。日産自動車社長のカルロス・ゴーンやファーストリテイリング会長兼社長の柳井正、日本電産社長の永守重信ら、日本を代表するカリスマ経営者と、それを支える番頭=BANTOUの姿を描くとともに、コンサルティング会社のビズグローがそのあり方を読み解く。
「小島さんは分かっていない」
東京都千代田区。三菱商事本社の会議室で、副社長だった小島順彦(よりひこ)(現会長)に、18歳年下の部下が机をたたかんばかりの勢いで、声を荒らげた。
風通しの良い三菱商事でも、副社長にここまで盾突く部下は決して多くない。激しい口調で詰め寄ったのは当時、同社で流通担当だった42歳の新浪剛史だ。
今年10月、その新浪は創業家以外では初めてサントリーホールディングス(HD)の社長に就任した。国の経済財政諮問会議の民間議員も務めるなど、サントリーの創業家や首相に戦略を授ける経済界のキーパーソンである。
14年前、経営再建中だったダイエーに代わり、業界2位のローソンの経営改革に乗り出した三菱商事。新浪はローソンの担当役員でもあった小島を相手に、一歩も引かず持論をぶつけた。相手が誰であろうと言うべきことは、はっきりと直言する。
「若いながらも、自分の意見をしっかり持っている」と小島は目を細めつつ、「かわいくない部下の典型だった」と振り返る。