鑑賞眼

中村屋3代の声が重なる至福 歌舞伎座 十月大歌舞伎

 中村勘九郎・七之助兄弟が、偉大な祖父(十七代目中村勘三郎)と父(十八代目勘三郎)の追善で、2代が演じた演目に挑んだ。

 昼。「野崎村」で、七之助が初役で悲恋のヒロイン、お光に。久松(中村扇雀(せんじゃく))との祝言を思い描き、はしゃぐ前半の躍動から、お染(中村児太郎)来訪で一転、2人のわりない様子を察し、身を引く後半の静謐(せいひつ)さ。村娘から尼へ。旬(しゅん)の女形の美しさを崩さぬ作りが、水晶の玉より清き…の浄瑠璃通り、純粋可憐(かれん)、目に涼しいお光だった。

 「伊勢音頭恋寝刃(いせおんどこいのねたば)」では、勘九郎が福岡貢(みつぎ)、七之助が恋人の遊女・お紺。御家の重宝の名刀をめぐる騒動で、貢がほんわかとしたイイ男から今風のキレた状態になる殺し場が様式美に染まって妖艶(ようえん)だ。上方型のまろやかさが勘九郎に合った。料理人・喜助の片岡仁左衛門(にざえもん)の優しさ、貢をイジメ抜く仲居・万野の坂東玉三郎の憎々しい愛嬌(あいきょう)がともに絶品。「近江のお兼」と「三社祭」の舞踊2曲が付く。

 夜。「寺子屋」。仁左衛門の松王丸、その女房・千代に玉三郎。勘九郎初役の武部源蔵が立派だ。忠義絶対の武家社会の悲惨が3者の肚(はら)芸に収まっている。七之助が源蔵女房・戸浪(となみ)。舞踊「吉野山」があり、切りに「鰯売恋曳網(いわしうりこいのひきあみ)」。三島由紀夫作の喜劇で、中村屋しか演じていない作品だ。鰯売の猿源氏(さるげんじ)(勘九郎)が傾城(けいせい)・蛍火(ほたるび)(七之助)に恋い焦がれる。売り声、鰯かぅえ~いが至福の結末。中村屋3代の声が重なる。25日まで、東京・銀座の歌舞伎座。(劇評家 石井啓夫)