関西の議論

所有者不在で荒れ果て放置される巨大迷惑観音像…複雑に絡む権利・法律、倒壊の危険も行政は手を出せず

 観音像は7年1月の阪神淡路大震災、25年4月の淡路島地震でも倒壊は免れた。だが建築から30年以上が過ぎ、今年8月の台風11号の後に腰付近の外壁約2メートル四方が崩落しているのが見つかるなど、老朽化は着実に進んでいる。高さ100メートルのコンクリート製の巨大仏像が万一倒壊したら…。周辺住民の不安は増すが、行政は先の応急処置以上の対応に消極的だ。

 淡路市の門康彦市長は「持ち主のいない所で、市などが『危ないから』といっても勝手に手を出してしまって(債権者に)訴えられると負ける。それでも、市民の安全を守るため内部調査を行った。市は打つ手はすべて打った」と説明。「債権者は存在するものの、(相手は)『債権は持っているが管理は知りません』というスタンス。社会通念上おかしいが、法整備がきちんとされていないため、現場が対応しなければならない」と苦しい事情を明かす。

廃墟に「6億円」

 これまで何度か観音像を「買い取ろう」と名乗りを上げた人もいたが、内部の荒れ果てた状況を見てあきらめるなどさまざまなケースから実現していない。市の担当者も「今まで何度もそんな話が浮かんでは消え、浮かんでは消え…という状態」と話す。

 買い取り交渉にかかわった兵庫県洲本市の男性弁護士は、問題解決の具体的な障壁を知った。建物の固定資産評価額だ。

 この弁護士は関東地方の男性から依頼され、平成25年3月ごろから相続財産管理人と交渉。だが、提示された固定資産評価額に驚いた。「観音像本体だけで約6億円だった。具体的には答えられないが、十重の塔も『びっくりする額』だった」

 土地や建物など不動産を取得すると、不動産取得税が必要となる。さらに、自分名義にするには登録免許税も納めなければならなず、不動産を持っていれば固定資産税もかかる。これらの税額を算出する基盤になるのが、固定資産評価額だ。

 男性弁護士によると、提示額から計算すれば、観音像本体の購入代金以外で少なくとも「約4400万円」の税金が必要になるという。順調に進んでいるように見えた交渉は、この問題がネックとなって頓挫した。廃墟を紹介するインターネットサイトで話題となる観音像につけられた億単位の評価額。このほか解体費用にも億単位の金額が必要とみられている。

「27年度に方針」

 行政の取り得る手立ては本当にないのか。観音像を防災や景観上の問題から「空き家」と見てはどうだろう。空き家の扱いは各自治体で大きな課題となっているが、積極的な取り組みをしているのが和歌山県だ。

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