熊本の眼科医・出田秀尚氏が「医者どんの言志録」出版

 熊本市中央区の出田眼科病院名誉院長、出田秀尚氏(75)がエッセー集「医者どんの言志録」を出版した。金原出版(東京)の医学専門誌「眼科」で平成6年から20年間続けた連載をまとめ、日常の診療風景から、医師や患者としての心構えを説いた。出田氏は「良い医療を行うには、医者の『技術と心』が車の両輪として必要。心を育てる教科書になればうれしい」と語った。

 「良い組織づくりの基本は、職員の人間的尊厳を第一に考えること」

 「不測の事態が発生したときには、天に従い、私心を捨てること。則天去私の考えは、病気を乗り越えるときばかりでなく、これを心得た人は事態に柔軟に対応し、人生で成功を収めることができる」

 エッセー集「医者どんの言志録」には、開業医を中心に医者が心に留め置くべきこと、病という非日常の世界に突き落とされた患者が、病を乗り越えて生きていくための心がけが、ふんだんに盛り込まれた。

 出田氏は北九州市出身で熊本大大学院修了。米国留学中、網膜剥離(はくり)の手術を完成に導いたハーバード大のチャールズ・スケペンス教授に師事した。

 熊本大眼科講師を経て、昭和54年、妻の実家の眼科診療所を引き継ぎ、出田眼科病院を開業した。

 出田氏は網膜剥離などの治療に必要な「網膜硝子(しょうし)体手術」を数多く執刀した。難易度が高い手術を成功させ、多くの患者を失明の危機から救ってきた。

 診察のかたわら、昭和57年から11年間、専門誌「眼科」に執刀例を紹介。平成5年には集大成となる「図説網膜硝子体手術」も出版した。

 執筆活動は、医療の具体的な話にとどまらない。

 「良質な医療の実現には、技術面だけでなく、精神性も重要。日常診療で私がどう考え、行動したかを記していきたい」

 出田氏は6年、メンタルに重点を置いたエッセーの連載を始めた。25年までに142編。今回、この連載を、対医師編と対患者編に再編し、322ページの新書版にまとめた。

 本のタイトルは江戸時代の儒学者、佐藤一斎の語録「言志四録」から名付けた。

 院長職は長男、隆一氏に譲ったが、現在も現役の医者として外来診療などにあたる。

 「患者と医者の間には心のすれ違いなど問題が発生する。私は、先人の教えを思い出して、こうした問題を含め病気を乗り越える工夫をしてきた。同じように後進の医師の心のあり方の参考にしてもらいたい」と述べた。

 本は非売品だが、問い合わせは金原出版(電)03・3811・7162。

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