昨年6月16日昼過ぎ、家族を連れて自宅近くの川で水遊び中、男児=当時(5)=が1人、河原で遊んでいるのが目に留まった。「職務上、周囲に危険がないかは常に観察しています」。1人遊びは危ないと考え、男児に自宅に帰るよう声をかけた。
1時間後。帰り支度をし、周囲にゴミを落としていないか長男の崚助君(10)と確認を始めた矢先、小さな靴が川を流れていくのが見えた。よく見ると、水面に足だけ突き出た先ほどの男児だった。自宅に帰る途中、崖から川に転落したらしい。
気づいた瞬間、体が動いていた。崚助君に「お母さんに119番を頼め!」と指示し、男児を岩場に引き上げた。呼吸も心臓も止まっていたが、「まだ間に合う」と直感した。18年前、護衛艦で勤務中、対馬沖で遺体を発見し、収容した。遺体は真っ白だった。比べて男児は体中が紫色で、明らかに違ったからだ。
海上自衛官として、入隊直後からたたき込まれた心肺蘇生法を2セット、繰り返したところで、男児は息を吹き返した。救急車に少しでも近づこうと、男児を担いで崖を駆け上がり、救急隊員に引き渡した。
男児は3日間の入院で済んだ。見舞いに行くとお礼を言われた。看護師から「大人になったら海上自衛官になりたい」と話していたと聞いた。「十数年後、あのときの子供です、なんて制服姿で来てくれたら本当にうれしいですね」と笑顔を見せた。