キラリ甲信越

世界一のバリスタ、丸山珈琲・井崎英典さん 長野

 ■一杯のコーヒーがつなぐ懸け橋

 コーヒーをいれる職人、バリスタ。技術だけでなく豆の産地や焙煎などについて豊富な知識を持つ。その世界一を決める今年の「ワールドバリスタチャンピオンシップ」(WBC)で、軽井沢を中心に県内外に店舗を展開する丸山珈琲の小諸店所属、井崎英典さん(24)が頂点に立った。日本人初の快挙とあって、大会後は国内外のイベントに招かれ、飛び回る毎日が続く。若きバリスタのコーヒーの魅力は味や香りのみならず、逆境からはい上がった人生を背景とした徹底的なこだわりにあった。(三宅真太郎)

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 イタリアのリミニで6月に行われたWBCの決勝戦。井崎さんは大きく「ふう」と息を吐き、4人の審査員が座る競技テーブルの前に立った。わずか15分の競技時間に集中し、持てる限りの技術と気持ちを注ぎ込む。その間、井崎さんの手と口は絶え間なく動く。エスプレッソやカプチーノなど12杯を作りながら、豆の生産地から特徴に至るまで英語で審査員に詳しく説明する。

 井崎さんが「プリーズ、エンジョイ」とコーヒーをテーブルに置くと、味やプレゼンテーションを評価する審査員がカップを傾け、ゆっくりと混ぜてから口に運ぶ。さらに技術面を評価する2人の審査員が動作を細かく評価する。

 井崎さんが特にこだわったのがコーヒー豆。コスタリカ産で生産者はエンリケ・ナヴァロさん(22)。2年前にコーヒー豆を探しにコスタリカを訪ねたときに出会って以来の友人だ。「これからの業界を背負う若い2人で挑みたい」。大会に向け、豆の品種や土壌、乾燥方法などを徹底的に話し合って試行錯誤を重ねた末、酸味と甘みのバランスに優れた豆を作り上げた。井崎さんはプレゼンの最後、「私の15分はエンリケと自分が歩んできた道のりそのものです」と締めくくった。

 井崎さんに転機が訪れたのは17歳のとき。福岡市でコーヒー店を営む実家を離れ、スポーツ特待で入学した高校でバドミントンに打ち込んだが、結果が出ず、志半ばで高校を中退。実家で一からコーヒー修業を始めた。その後、通信制高校に入り直して卒業し、東京の大学に進学。父親の紹介でバリスタ育成に力を入れていることで全国的に有名だった丸山珈琲の門をたたいた。週末や長期の休みの間、小諸店に通い、先輩から徹底した指導を受けた。

 「アルバイト代は宿泊費と交通費に消えましたが、青春をささげるものが見つかって幸せだった」。努力は実り、大学4年だった平成24年に国内大会で優勝。卒業後、正社員となり1年目の25年にWBCに初出場、2度目の挑戦の今年、早くも栄冠に輝いた。

 大会後は感慨に浸る間もなく環境が激変。国内のみならず、ブラジルやエクアドルといったコーヒー豆の名産地などからイベントに呼ばれ、「世界一のコーヒー」を振る舞う。「コーヒーは生産から買い付け、焙煎、抽出まで多くの人が携わって出来る。その人たちとお客さんとの懸け橋がバリスタなんです」。井崎さんは今、そう確信している。

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 【会社概要】丸山珈琲

 平成3年、長野県軽井沢町で丸山健太郎代表が創業。現在、同県内に4、東京都に2、山梨県に1の店舗を展開する。「生産者の思いとともに高品質のおいしさを届ける」をモットーに、コーヒーの豆の買い付けから焙煎、抽出、提供までを自社で行う。バリスタのみならず、全セクションの人材育成に力を入れる。

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