神戸市須磨区で平成22年10月、元専門学校生の釜谷圭祐さん=当時(19)=ら2人が暴行され、釜谷さんが死亡、もう1人が重傷を負う事件があった。この事件で、傷害致死傷罪に問われた主犯格の男(26)には25年2月、神戸地裁が懲役14年の実刑判決を言い渡し、上告棄却後の11月に確定した。損害賠償を求めた民事訴訟も含めて一連の裁判は終わったが、この男からの遺族への賠償は今も実行されていないという。釜谷さんの母、美佳さん(48)は「被害者は泣き寝入りするしかないのかもしれない」と悲嘆に暮れる。犯罪被害者や遺族への賠償が進まない現状に、専門家からは「以前から存在するものの解決が難しい問題。国が責任を持って対応しないといけない」との声も上がる。(清作左)
むなしい「対話」
この事件は、男の仲間らが取り囲む中で起きていたことなどから、当時は「集団リンチ事件」とも呼ばれた。ただ、きっかけは男の勘違いだった。
男は22年10月29日未明、妹と一緒に遊んでいた釜谷さんら2人が妹を連れ回していると思い込み、激怒。仲間などを集め、集団で釜谷さんらに暴力をふるって逃げた。男の暴力は神戸地裁判決で「無抵抗の被害者に執拗かつ危険な暴行を加え、死亡させた。遺族の悲しみは察するに余りある」とされたほどで、釜谷さんは顔が判別できないほど殴られ、その日の内に死亡した。
事件を巡っては、男のほかに、同罪に問われた当時少年だった男に懲役3年以上4年6月以下の不定期刑などが確定している。
民事裁判では、神戸地裁から男らにそれぞれ約8千万円の賠償命令が出たが、美佳さんには賠償金は一切支払われていない。そこで美佳さんは実情を把握しようと、兵庫県弁護士会の「犯罪被害者・加害者対話センター」を利用し今年6月、男の母親から直接話を聞いたが、その言葉に愕然(がくぜん)とした。
「私たちは自己破産して払えない。息子には払わせる」