遺族として法廷に立てないのか 春日部特養施設不起訴事件の真相は 埼玉

 春日部市の特別養護老人ホーム「フラワーヒル」で平成22年に発生した入居者に対する傷害致死事件。さいたま地裁は元職員の大吉崇紘被告(30)に懲役8年の判決を下した。事件はこれで一つの区切りとなるのか。別の傷害致死事件の被害者とされた女性=同(78)=の次男(46)は「納得できない」と心境を吐露した。

 大吉被告は公判の中で、起訴された事件の被害女性=当時(95)=のほか、別の女性入居者2人への暴行も認めている。

 フラワーヒルでは、大吉被告が勤務を始めた直後の同年2月15~18日の4日間で、入居者3人が死亡、1人がけがをした。県警は判決が言い渡された事件のほか、84歳の女性への傷害容疑と、78歳の女性への傷害致死容疑でも大吉被告を立件したが、さいたま地検はいずれも不起訴処分(嫌疑不十分)とした。死亡したもう1人については事件化されていない。このうち、78歳の女性の次男が今年2月、処分を不服とし、さいたま検察審査会に審査を申し立てている。

 公判を傍聴した次男は「2人への暴行が裁かれないことを分かった上で、情状酌量を求めるために暴行を認めたのでは」と話す。

 事件発生当時の行政の対応も不信感を募らせるものだった。施設は入居者の死傷事案が相次いだ後、大吉被告による虐待の可能性を春日部市に報告。しかし、市は大吉被告に直接の事情聴取はせず、書面での回答のみで調査を終えていた。昨年11月には、身内の市幹部のみで構成された「検証委員会」が、「おおむね対応は適切だった」とする結論を出している。

 次男はこうした関係機関の対応に、高齢者虐待防止法などの本来の趣旨が生かされていないと指摘し、改善の必要性を訴えている。

 「どうして私も遺族として法廷に立てなかったのか、納得できない」

 のんびりと余生を過ごすはずだった母親が、信頼していた介護職員に暴行されて死亡したとすれば、「真実を知りたい」と思うのは当然だ。だが、複数の事件の経緯が闇に埋もれかけようとしている。大吉被告の弁護人は判決後、「厳粛に受け止めるしかない。控訴するかは本人と相談して決めたい」と話している。(佐藤祐介)

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