苦境の肥薩おれんじ鉄道支援、熊本・鹿児島に温度差

 苦境にあえぐ第三セクター、肥薩おれんじ鉄道(熊本県八代市)への公的支援スキームが固まった。今後10年間で33億円の資金不足が見込まれることから、沿線の熊本県と鹿児島県は計27億円の追加支援を決めた。だが、支援に伴う運賃引き上げの是非などをめぐって両県の間には温度差があり、将来の禍根となる可能性も否定できない。自助努力によって明るい話題も増えたおれんじ鉄道だが、存続には茨(いばら)の道を切り開くさらなる努力が求められる。(大森貴弘)

                   ◇

 「追加支援がなければ廃線の危機でした。支援が決まって、一つハードルを越えたと感じ、社員の表情も少し明るくなりました」

 今年6月19日。熊本、鹿児島両県が肥薩おれんじ鉄道の存続に向けて、今後10年間で計27億円の追加支援に踏み切ることを表明した。支援決定を聞いたおれんじ鉄道幹部は、胸をなで下ろした。

 新たに決まった支援スキームは熊本側が13億円、鹿児島側が14億円を支出するものだが、ここまでは曲折を経た。

 おれんじ鉄道は平成16年度の開業以来、沿線人口減少による経営難が続く。

 17年度に37万8千人だった沿線人口は、22年度は36万1千人に落ち込んだ。初年度188万人だった輸送人員も現在、7割程度になっている。

 この結果、会社は毎年1億~2億円の赤字を出し、25年度末の累積損失は12億5200万円に達した。

 今後も黒字転換のめどは立たず、おれんじ鉄道は「今後10年間で33億円の資金不足が見込まれる」との試算を24年度に公表。存続に沿線自治体の支援が不可欠とSOSを発した。

 ■苦渋の決断

 だが、沿線の熊本、鹿児島両県の動きは鈍かった。すでに多額の公金を投入しているからだ。

 鹿児島県は、おれんじ鉄道発足に合わせて5億円の「経営安定基金」を設けた。熊本県も毎年一般会計から数千万円の補助金を支出してきた。

 その経営安定基金も残金は9千万円しかなく、追加支援がなければ、早晩、廃線という言葉が現実味を帯びる。

 苦渋の決断で追加支援を決めた熊本、鹿児島両県だが、一枚岩ではない。

 鹿児島県は14億円のうち4億円を県と沿線自治体の一般会計から、残り10億円を県内全市町村の共有財産である「鹿児島県市町村振興基金」から支出する計画を立てた。鹿児島県は沿線外の自治体にも支援を求める以上、赤字圧縮の方策として、運賃値上げを求めている。

 一方、熊本県側は県と沿線自治体のみが一般会計から補助を出す方針を固めている。

 熊本県交通政策課の担当者は「うちは沿線自治体中心に補助する仕組みを変えるつもりはない。運賃値上げはさらに利用者が減る可能性があり、まずは経営の合理化が先だ」と値上げに反対する。

 この両県に対し、おれんじ鉄道の淵脇哲朗社長は、今年6月27日の株主総会で運賃値上げを視野に入れていることを明らかにした。

 鉄道ジャーナリストの梅原淳氏は「両県の路線対立が今後、さらに表面化し、深刻化する恐れも否めない」と危惧する。

 温度差があるのは、両県の間だけではない。鹿児島県内にも、おれんじ鉄道支援への思いには格差がある。島嶼部などの自治体が「なぜ我々の基金から支援するのか」と不信感を抱くのも当然だ。

 だが、鹿児島県の場合、おれんじ鉄道沿線に配慮する事情がある。

 おれんじ鉄道は九州新幹線の開業に伴い、JR九州から経営分離された。この結果、観光客増に沸く「新幹線沿線」と、特急が停まらなくなり企業の拠点も減少した「おれんじ鉄道沿線」という「光と影」が県内に生じてしまった。

 万一、おれんじ鉄道が廃止となれば、地域格差はさらに広がる。鹿児島県にとっては、どうしても全県でおれんじ鉄道を支える必要があった。

 ■新たな取り組み

 一方、おれんじ鉄道も存続に必死の経営努力を進める。

 当初はJR九州の出向者とOBが社員の大半を占めたが、現在は自社採用の社員が半数に達した。テレビプロデューサーや商社員などの経歴を持つ経験者も採用し、新たな取り組みを模索している。

 取り組みの一つが平成25年3月に導入した観光列車「おれんじ食堂」だ。東シナ海の雄大な景色とともに本格コース料理を堪能できるとあって人気が高い。運行日は週末と長期休暇のみだが、平均乗車率は80%以上。平成25年度は計1万4千人が乗車し、1億6千万円の売り上げをたたき出した。

 この効果もあり、おれんじ鉄道の25年度の輸送人員は139万人と6年ぶりに増加に転じ、売上高も過去最高の14億6600万円に達した。

 食堂に続けとばかりに、おれんじ鉄道は今夏、列車の中でビールを飲みながら花火を鑑賞する「花火列車」を投入する。東京の商社から転身した永井秀徳総務課長は「社内の士気は上がっています。アイデアの続く限り観光列車を走らせ、リピーターを増やしたい」と語った。

 おれんじ鉄道は、せめぎ合う熊本と鹿児島両県の間で、民間事業者として存続に向けた知恵を絞る。