My Life 前を向いて

「天使のパン」作り続ける元競輪選手 障害抱え一日3個、注文から14年待ち

 古都・鎌倉の静かな住宅街に、看板のないパン屋がある。青空が広がった4月下旬のこの日も、小さな家庭用オーブンから外はサクサク、中はふんわりとした食パンが焼き上がり、香ばしい匂いが漂っていた。

 6年前、元競輪選手の多以良(たいら)泉己(みずき)さん(39)は妻の総子(ふさこ)さん(43)と自宅で、食パンやライ麦パン、クルミパンなどのインターネット販売(http://www.gateaudange.com)を始めた。

 レース中の事故による後遺症で、一日に作れるのは平均3つだが、生き方に共感して注文する人は尽きない。食べた人から「こんなに勇気の出るパンはない」「生きる力をもらった」と多くの感想が寄せられ、口コミで「天使のパン」として広まった。今は注文から14年待ちになっている。

落車事故、後遺症…

 横浜市で育った。運動神経抜群で、小学3年のときに父親と宇都宮競輪場に行き、プロ選手を夢見た。高校卒業後、6度目の受験で競輪学校に合格。平成12年4月、25歳で念願のプロデビューを果たした。17年3月には聡子さんと結婚した。公私ともに順風だったが、悲劇は時を待たなかった。

 その5カ月後、最上級クラスへの昇級がかかったレースで1着でゴールする直前、後続の転倒に巻き込まれて頭から落車した。2日間生死の境をさまよい、意識が戻っても手足が動かせず、言葉も出ない。

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