衝撃事件の核心

70歳・妻はなぜ90歳・夫を刺したのか…老老介護15年の地獄、崩れた妻の精神バランス

 15年にわたる夫の介護生活で鬱病を患った末、90歳になった夫の左胸を包丁で刺して無理心中を図ったとして、殺人未遂罪に問われた70歳の妻が昨年12月、大阪地裁から懲役3年、執行猶予3年(求刑懲役5年)を言い渡された。生活のほぼすべてを「老老介護」にささげてきた苦難から逃れようと、妻は意を決して夫の胸に包丁を2度も振り下ろした。だが、まさに出血して命を絶たれようとする夫の発した意外な言葉で、致命傷を加えるのは思いとどまった。「生きるんだ!」。それは自らに刃を向けた妻を叱咤(しった)するメッセージだった。

胸を刺されても「大丈夫」

 平成25(2013)年6月16日の早朝、大阪市内のマンション8階の一室。台所から持ち出した刃渡り21センチの刺し身包丁を手にした妻は、寝室で眠っていた夫の胸に包丁を2回振り下ろした。「痛いっ。何するんだ」。驚いて目を覚ました夫に、妻は「あなた、死んでください。私も飛び降りて死にます」と迫った。

 だが、夫も性根がすわっていた。「生きるんだ!」と妻を一喝し、知人に連絡するよう指示。その知人からの119番で救急隊員が駆けつけると、シャツを血に染めた夫が横たわるベッドのそばで、妻が呆然(ぼうぜん)と立ちつくしていた。

 夫は搬送時、隊員に「妻に胸を刺されたけれど、大丈夫」と話したという。傷は2カ所あり、深さはいずれも4~5センチ。心臓や動脈には達しておらず、約3週間のけがで命に別条はなかった。

 妻は殺人未遂の疑いで大阪府警に現行犯逮捕された。当初から容疑を認め、「介護に疲れた」と供述していた。

ほぼ24時間の付き添い

 90歳の夫の面倒を70歳の妻がみるという典型的な「老老介護」。12月に開かれた公判では2人のなれそめから、介護生活の詳細までが明らかになった。

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