中高生のための国民の憲法講座

第27講 「国民の三大義務」の不思議 八木秀次先生

 「ソ同盟においては、労働は『働かざる者は食うべからず』の原則によって、労働能力あるすべての市民の義務であり、名誉である」(山ノ内一郎訳、『人権宣言集』岩波文庫)

 スターリン憲法の規定が日本国憲法に持ち込まれたのは、一つには鈴木安蔵というマルクス主義を信奉する民間研究者らによる「憲法研究会」が昭和20(1945)年12月26日に発表した「憲法草案要綱」に「国民は労働の義務を有す」と規定され、その影響を受けた日本社会党が第90回帝国議会の衆議院の審議で追加提案した他、憲法の原案を起草したGHQ(連合国軍総司令部)民政局にもベアテ・シロタら社会主義の理解者がいたからです。

 ◆「国防の義務」がない

 勤労の義務はスターリン憲法に倣って、国民を総プロレタリアート(労働者)化せよ、という社会主義の発想に基づいたものです。国民の中には先祖や親の財産を相続して地代や家賃、利息などで生活できる人もいます。そのような不労所得を否定するのが本来の趣旨なのです。ここから不労所得を可能にする私有財産制の制限も「当然許される」とする見解(宮沢俊義『憲法II』)も出てきます。他にも日本国憲法には「休息の権利」(27条2項)などスターリン憲法の影響が見られます。

 他の国の憲法には勤労の義務の代わりに「国防の義務」が規定されています。これがないのも日本国憲法が異例である点です。

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【プロフィル】八木秀次

 やぎ・ひでつぐ 高崎経済大学教授。早稲田大学法学部卒、同大学院政治学研究科博士課程中退。専門は憲法学、思想史。政府の教育再生実行会議委員、フジテレビ番組審議委員、日本教育再生機構理事長。著書は『国民の思想』(産経新聞社)、『憲法改正がなぜ必要か』(PHPパブリッシング)など多数。51歳。

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