世界史の遺風

(73)アンブロシウス ローマ皇帝を屈服させた司教

 アンブロシウスという人物には、戦闘する教父の原型が息づいているが、人の心に語りかける懐深いところもあった。有能なテオドシウス帝さえもミラノ司教の威光に屈しなければならなかったのだ。

 同帝が懺悔したころ、異教の神殿に詣でたり、神々に犠牲をささげたりすることは禁止されていく。394年、千年以上つづいた古代オリンピック競技の幕が閉じられ、神々の聖火も消えた。

 多神教世界から一神教世界への大転換の時代。まだ足腰も丈夫でなかった4世紀のキリスト教が縄張り争いに勝利する。アンブロシウスの強靱(きょうじん)な精神がなかったならば、キリスト教が勝者たりえたかどうか、いまなお、問いかけてみたくなる。

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【プロフィル】アンブロシウス

 4世紀キリスト教会の司教。339年ごろ、ローマ貴族の家に生まれ、法律と修辞学を学び、帝国の行政官に。ミラノ在任の州知事のときキリスト教内の宗派対立を収め、74年に司教就任。異端派の放逐や教義固めなどで教会の内部統制を強化し、90年にはテオドシウス帝の民衆虐殺に対し対決姿勢で臨んで屈服させるなど、教会の権力を大きく伸長させた。97年死去。

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【プロフィル】本村凌二

 もとむら・りょうじ 昭和22年、熊本県生まれ。東大大学院修了。文学博士。専門は古代ローマ史。著書に『薄闇のローマ世界』『馬の世界史』など。サントリー学芸賞、JRA馬事文化賞、地中海学会賞受賞。

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