話の肖像画

作家・瀬戸内寂聴さん(1) 発刊50年「夏の終り」が映画化

瀬戸内寂聴さん=2013年6月25日(蔵賢斗撮影)
瀬戸内寂聴さん=2013年6月25日(蔵賢斗撮影)

40歳のときに書いた「夏の終り」が映画になりました。出版されて50年と聞いて驚いたんですけれど、自分の作品の中でも最も好きなもので、代表作を挙げてくださいといわれると、やはり一つはここに来ます。初期のころの作品で未熟なところもあるんですが、とても情熱がこもっていると思います。

〈91歳の今も、精力的に作家活動に取り組む瀬戸内寂聴さん。「夏の終り」は昭和37年に発表、同作を含む短編連作として38年に出版された。2人の男性の間で揺れる女性の愛と矛盾を描いた初期の代表作で、女流文学賞を受賞。今年で出版50周年を迎えたが、100万部を超えるベストセラーになっている〉

いわゆるロングセラーで、ちょうど今頃、夏の終わりが来たら売れるんです。これまでに何度も映画やドラマになってきましたが(内容を)変えることが多いでしょう? ところが今回は原作に忠実で、脚本がとても小説に沿っている。映画を見て、作者としてはどこか落ち着かない、とても生々しい感じがして圧倒されました。

〈映画「夏の終り」(熊切和嘉監督)は31日から全国公開。主演の満島ひかりに、小林薫、綾野剛と個性豊かな俳優を配した話題作だ。昭和30年代の町並みを求め、兵庫県・淡路島などで行われたロケの映像も美しい〉

いわゆる私小説の手法で書いたもので、いかにも本当そうに書いてはいますが、小説は小説です。ただ、(妻子ある年上の作家・慎吾役の)小林さん? ちょっとしたしぐさや表情がとても似ていて本当にびっくりしました。

〈似ているというのは、丹羽文雄主宰の同人誌「文学者」で出会い、半同棲(どうせい)していた作家・小田仁二郎のこと。作品はあくまで私小説的手法の小説だが、その体験が投影されている〉

文学はどうあるべきかということ、そして文学の高さと低さを教わったのが小田さんでした。売れる文学と売れない文学、作者の志が高い文学と低い文学-。そんな根本的なことをたたきこまれたんです。そして、書くなら高い文学を書かなくてはいけない。その見分け方も自然に体得しました。これは今に続いています。

〈一方、年下の文学青年との恋愛もあった〉

彼には書いたものを片っ端から読んでもらいましたよ。私の中に眠っていた文学への情熱を呼び覚ましたのは、この人でしたね。

〈「夏の終り」で女流文学賞。作家としての地位を確固たるものにする〉

2人とも私の文学的才能を、私自身よりも早くに発見して、認めていました。私自身が全然、認めていなかったときにね。これってすごいことで、いまでも振り返って感謝しています。当時私は自分がいまほどの小説家になれるとは思っていなくて、まあなんとか小説で食べていけるかなあという程度だったのに。彼らは文学というものをよくわかっていたんでしょう。私はまだよくわかっていなくて、ただ書くことが好きで小説を書いていた。もちろん、今はわかっていますけれど。

(聞き手 山上直子)

【プロフィル】せとうち・じゃくちょう 大正11年、徳島県生まれ。東京女子大卒、昭和32年「女子大生・曲愛玲(チュイアイリン)」で新潮社同人雑誌賞、36年「田村俊子」で田村俊子賞、38年「夏の終り」で女流文学賞を受賞。48年岩手県・平泉中尊寺で得度、平成4年「花に問え」で谷崎潤一郎賞、13年「場所」で野間文芸賞を受賞。「かの子撩乱(りょうらん)」「現代語訳源氏物語」「瀬戸内寂聴全集」(全20巻)など著書多数。18年に文化勲章を受章した。京都・嵯峨野の「寂庵」庵主。

 

【話の肖像画】瀬戸内寂聴さん 記事一覧