話の肖像画

ブロードウェー・プロデューサー 川名康浩(52)(1)

■娯楽性と普遍性 化学反応仕掛ける

今年のトニー賞(米演劇界最高の栄誉)は、「マチルダ」と僕がプロデューサーの一人として参加した「キンキー・ブーツ」の一騎打ちでした。ノミネートは3年連続ですし、無心で授賞式を楽もうと思っていましたが、実はハラハラドキドキし通しでした。

〈ブロードウェー・プロデューサーとして手がけた5作目のミュージカルは今年の第67回トニー賞で、楽曲賞(米歌手シンディー・ローパー)ほか6部門で受賞を果たした〉

最後の作品賞の発表で、「キンキー」の「K」の発音を聞いたときは、飛び上がりました。一瞬にして青空が見えたような感覚。一生、忘れられません。作品は自分の子供と一緒です。6年かけて育ててきたんですから。

近くにいた別のプロデューサーと抱き合って、壇上に上がる際にはシンディーが僕の背中を押してくれました。何よりうれしかったのは舞台袖に入ったら、その日の舞台を終え、授賞式でもパフォーマンスをしてくれた出演者やスタッフ全員が待っていてくれたこと。一緒に闘った仲間と抱き合って喜びました。

〈「キンキー・ブーツ」は2005年公開の同名映画が原作。経営危機の靴工場再生のため、男性向けのセクシーなブーツを開発するコメディー・ミュージカルだ〉

何が評価されたかというと、理屈抜きに楽しい娯楽部分と、普遍的なテーマとのバランスがうまく取れていたからだと思います。コメディーですが、すごく社会的で偏見や差別の問題、父子の葛藤が描かれ、最終的には人間の尊厳は何か考えさせる。ゲイもストレートも年寄りも子供も、いろんな価値観があったら反発するのではなく、まずは互いの多様性を受けいれる。大切なメッセージのある作品です。

〈「キンキー・ブーツ」は、英国の老舗靴工場の実話がもとになっている〉

実話の持つリアリティーは強い。これまでトニー賞にノミネートされた「キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン」(2011年、作品賞)も、「エビータ」(2012年、リバイバル作品賞)も実話ですね。

題材は企画段階で、おなかにすとんと落ちるかどうか。その点、実話はその時代、必要な出来事だから起きたという必然がある。ではそれを2013年にやる意味があるかといえば、普遍性があるかどうかに尽きます。

父子の葛藤や偏見、人間の尊厳というものは世界共通のテーマです。一方でいいテーマがあっても、娯楽になっていないとブロードウェーの舞台として成功しません。それこそがプロデューサーの手腕で、化学反応を仕掛ける。原作は映画でも「舞台にしたらもっとはじける」とか、「この作品をあの演出家に任せたら違う方向になる」とか。キンキーでいえば、シンディーに作詞作曲をしてもらうとか、あれこれ考えるのがプロデューサーの醍醐(だいご)味です。ブロードウェーには選択肢となる才能が豊富で、選ぶことができるんです。(聞き手 飯塚友子)

=北海商科大学教授、水野俊平さんは8日付から掲載

【プロフィル】川名康浩

かわな・やすひろ 1961(昭和36)年、東京生まれ。大学在学中、劇団四季演劇研究所に入所し「ジーザス・クライスト・スーパースター」などに出演。フリーの俳優を経て93年に渡米。ニューヨーク大で映画を学び、98年、ニューヨークで川名エンターテインメント設立。プロデューサーとしてかかわった舞台が3年連続、米演劇界最高の栄誉であるトニー賞にノミネートされ、今年4月に開幕した「キンキー・ブーツ」が作品賞を含む6部門を受賞。日本人として初めて受賞者に名を連ねる。

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