息苦しい時代を反映? 本のタイトルに続々 「力」頼みの出版界

 話す、聞く、伝える、選ぶ…タイトルに「力」を付けた本が書店をにぎわしている。苦境の出版界を活気づける力頼みは何を物語るのか。系譜をひもとくと、時代の気分が見えてきた。(海老沢類)

 ◆伝わる熱い思い

 「いろいろな方々の『力』があって、ここまで来られました」。3月中旬、東京都内の書店。自著のサイン会に集まったファンの前で、俳優の西郷輝彦さん(66)は芸能界デビュー50周年の感慨をかみしめた。新刊『西郷力(さいごうりょく)。志を鍛えるための7カ条』(徳間書店)は、ご三家の一人として一躍スポットライトを浴びたデビューや役者への目覚めなど人生の節目を回想しながら、若いころの志を持ち続ける大切さを訴える。「題名は本人の発案。頑固に生きようよ、という熱い思いが伝わってくる」(担当編集者)

 ベストセラーの不在が騒がれた昨年、唯一のミリオンセラーとなったのが阿川佐和子さん(59)の『聞く力 心をひらく35のヒント』(文春新書)だった。昨年1月に発売され、32刷132万部。1千人近いインタビューをこなした実体験から来る説得力に富む内容に加え、シンプルな題名も話題に。出版事情に詳しいフリーライターの永江朗(あきら)さん(54)は「流行を反映しつつも決して古びない題名。先行き不透明なものを突破するような『力』の前向きなイメージも読者に響く」と話す。

 ◆負をプラス転換

 ヒットの先がけは、赤瀬川原平さん(76)が平成10年に刊行したエッセー『老人力』とされる。後ろ向きにとらえられがちな「老い」という言葉を肯定的な印象に変える、組み合わせの妙が評判を呼んだ。渡辺淳一さん(79)のエッセー『鈍感力』(平成19年)、政治学者の姜尚中(カン・サンジュン)さん(62)の『悩む力』(20年)、経済評論家の勝間和代さん(44)の『断る力』(21年)といった後続のベストセラーも、負の要素をプラスに変える新鮮な題名が目を引いた。

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