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【老舗旅館の10年 東日本大震災】 震災復興テーマのアニメの舞台に ファンに支えられ 熊谷浩典さん

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大鍋屋代表の熊谷浩典さん=7日午前、宮城県気仙沼市
大鍋屋代表の熊谷浩典さん=7日午前、宮城県気仙沼市
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 「作品のゆかりの地に来られてよかった」「一刻も早い復興を願います」。

 東日本大震災で津波被害を受けた宮城県気仙沼市。中心街の魚町(さかなまち)地区にある老舗旅館「大鍋(おおなべ)屋」の「交流ノート」にはメッセージが並ぶ。震災をきっかけに生まれたアニメを愛するファンがつづる。

 「本当に熱い人ばかりです」と老舗旅館の4代目は笑顔を浮かべる。

 創業は明治28年。遠洋マグロ漁船が寄港する国内屈指の港町にある大鍋屋は漁師の定宿だった。しかし、平成23年3月11日、気仙沼は巨大津波に襲われ、海岸から約100メートルの大鍋屋ものみこまれた。

 流失はまぬがれたが、大量のがれきが流れ込み家財道具は散乱した。

 それでも店をたたもうとは思わなかった。

アニメに描かれた大鍋屋
アニメに描かれた大鍋屋
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 「陸に上がったときはゆっくりと畳の上で寝たいね」

 マグロを追い求め、海とともに生きる漁師の言葉が脳裏から離れなかったからだ。「この地で商売を続ける」。被災からわずか4カ月後の7月、営業再開にこぎつけた。

 「おい浩典、テレビをつけろ。うちがアニメに出ているぞ」

 震災から4年後、平成27年6月の深夜。兄で衆院議員の小野寺五典(いつのり)氏(60)からの電話を受けた。関東で再放送されていたアニメ「Wake Up,Girls!(ウェイクアップガールズ)」を偶然見ていたという兄。そういえば最近、若い男性の宿泊客が増えていた。その理由に合点がいった。

 アニメは宮城県を舞台に、7人の少女がアイドルグループとして成長する姿を描いている。被災地の支援をテーマに、実在する場所が取り上げられ、ファンの間では、震災と向き合う作品としても評価された。

 その第9話。アニメの監督を務めた山本寛さん(46)が震災直後、ボランティアに訪れた気仙沼が舞台になった。大鍋屋がヒロインの一人、菊間夏夜(きくま・かや)の実家として登場し、7人が合宿のため過ごした。

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 全編を通して第9話のように被災直後の光景が描かれたのはまれだった。

 「(廃虚を描けば)そこに亡くなった人がいるかもしれない」

 山本さんは更地になった街並みの描き方に注意を払った。ファンの反響は大きく、大鍋屋は次第に、物語の舞台「聖地」として、取り上げられるようになった。

 震災の傷痕は少しずつ、癒(い)えている。それなのに、新型コロナウイルスの災禍は容赦がなかった。不要不急の外出や都道府県をまたぐ移動は自粛を求められた。大鍋屋でもキャンセルが相次ぎ、昨春の大型連休は宿泊ゼロだった。

 明るい兆しもなくはない。宮城県内の施設が2割増しで使える利用券を買ってもらうクラウドファンディング(CF)が設立された。大鍋屋も参加すると、アニメファンが賛同し、寄付金が集まった。

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 アニメに登場した建物は28年、区画整理事業のため取り壊しとなったが、かさ上げした同じ場所で31年に建て替えられた。コロナの影響で客足はまだまだ戻らないが、「交流ノート」の記載は着実に増えている。

 「アニメがきっかけで旅館を気にかけてくれる人たちと一過性でない関係をつくれた」

 この10年を振り返り、その先に思いをめぐらせる。

 「健康で旅館を続けられていることは奇跡。だからこそ、この地で商売を続ける責任がある」(尾崎豪一)

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