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【日曜に書く】さっちゃんは生き抜いた 論説委員・長戸雅子

 ◆テロの無益を示す世に

 転院や自宅療養を経て一時は支えがあれば起き上がれるほど回復した。丸ノ内線にサリンをまいた広瀬健一元死刑囚の上告審判決も見届けた。病状が再び悪化したのは3年前の秋。翌年7月にはオウムの元教祖、麻原彰晃元死刑囚ら13人の死刑が執行された。

 「自分にもし何かあったら幸子はどうなるのか」。こんな思いで25年を過ごした一雄さんはこう訴える。「妹は国を狙ったテロの犠牲になった。経済や精神面のケアも含めて被害を受けた人が一人になっても安心して生きられる環境を政府はつくってほしい」

 事件当初から寄り添い、「オウム真理教犯罪被害者支援機構」の副理事長を務める中村裕二弁護士は「被害者がすぐに立ち直ることができ、『テロなど起こしても何の効果も意味もない』とテロリストに分からせる社会。これができて初めてテロ対策といえるのではないでしょうか」と語る。

 麻原元死刑囚に今も帰依しているとされるオウムの後継団体は複数存在し、公安調査庁によると、資産の総額は昨年秋時点で約13億円にものぼる。

 戒名に刻まれた心

 20年ほど前、一雄さんに電話取材をしたときに聞いた言葉が忘れられない。「妹は体の自由や普通の生活を奪われた。でもオウムの悪意もサリンも彼女の優しさだけは奪えなかった」

 一雄さんは「最期までそこは変わりませんでした」と語る。

 事件前日、幸子さんがランドセルを贈った一雄さんの長男は今年父親に、事件当時2歳だった長女も母親になった。

 最後は新型コロナウイルスの影響で面会できない日が続いた。「新しい家族に会えていたらどれほど喜んでくれただろう。それが一番残念」

 そして「どうですか。いい戒名でしょう」と位牌(いはい)を見せてくれた。

 「優心」の文字が刻まれていた。さっちゃんがここにいると思った。全力で生き抜いたさっちゃんが。(ながと まさこ)

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