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東日本大震災9年、作家たちがみつめた「現在地」

東日本大震災後に出版された主な文学作品
東日本大震災後に出版された主な文学作品

 東日本大震災からまもなく9年。津波と福島の原発事故の傷痕が刻まれた詩や小説もこの間、数多く世に送り出されてきた。そんな「震災後文学」は現代社会の何を映し、日本人のどんな心象風景を物語ってきたのか。震災後の文学状況を論じた『その後の震災後文学論』(青土社)の著者で、津田塾大教授の木村朗子さんに聞いた。  (文化部 海老沢類)

芥川賞にも

 「震災直後は衝撃の大きさから、読み手の側に『わざわざ(震災を)作品で読みたくない』という気持ちがあったように感じる。ある種の拒否感。それは人々に潜在する不安の表れだったと思う」と木村さん。「でも最近は震災を描く作品がいろんな賞を受けている。それが9年間での一番の変化かもしれない」

 実際、震災直後から福島の人々の心の叫びを発信してきた詩人の和合亮一さんが詩集『QQQ』(思潮社)で令和元年に萩原朔太郎賞を受賞。既刊本との類似表現も問題視された北条裕子さんの『美しい顔』(講談社)をはじめ、ここ数年、被災地を舞台にしたデビュー小説もいくつか出た。平成29年には、東北の豊かな自然描写を交え、震災の日を境に決定的に失われたものをあぶり出す沼田真佑さんの『影裏(えいり)』(文芸春秋)が芥川賞を受けた。

 「20歳くらいの大学生にとって震災はすでに遠い記憶となりつつある」と木村さん。だからこそ災厄を歴史として語り継ぐ文学の役割が、読み手の側で見直されてきたのかもしれない。

鎮魂の物語

 死者・行方不明者が1万8千人を超える甚大な被害を与えた震災の後、多く書かれたのが、死者が語り手となり自らの死を嘆く-という物語。いとうせいこうさんの『想像ラジオ』(25年、河出書房新社)はDJの軽妙なトークが生者と死者をつなぐものを照らし出す。28年に出た彩瀬まるさんの『やがて海へと届く』(講談社)にも自身の突然の死を受け入れられない少女の魂の声が響く。そんな鎮魂の物語の数々は忘却と風化にあらがう闘いの記録でもある。「『(震災の悲劇も)いつか忘れられてしまう』。そう気づいた書き手たちが早くから表現していた」

 一方、「絆」の大切さを過度に説き合う住民の異様な姿をつづる吉村萬壱さんの『ボラード病』(26年、文芸春秋)のように、社会を覆う同調圧力の怖さを突きつけるディストピア(反理想郷)物も震災後に目立った。そうした設定をさらに推し進め、絶滅の危機にひんした未来を紡ぐSF風の作品が多く書かれたことに木村さんは着目する。

 川上弘美さんの『大きな鳥にさらわれないよう』(28年、講談社)は幾度かのカタストロフ(破局)を経て人口が極限にまで減った人類の未来史。日独両言語で創作する多和田葉子さんも『地球にちりばめられて』(30年、講談社)で、日本とおぼしき故郷を失った女性が広大な欧州を旅して回る姿を紡ぐ。

 「多和田さんの作品の主人公は生まれた国がなくなり難民となったこと自体には悩まない。それを当然の前提として冒険に出る。底流にあるのは国を超えた人の往来が激しい現在、一つの災厄が一国の事故で済まされなくなっているという現実認識です。これは福島の原発事故の影響に明らかだし、感染が拡大している新型コロナウイルスの問題にも通じる」

歴史を再考

 木村さんは自著『その後の震災後文学論』のなかで「震災後にさかんに第二次世界大戦を扱った戦争小説が書かれるようになった」とも指摘している。そこには、震災で将来の見通しが揺らぐなか、歴史を再考し、自分たちの足元を捉え直そうとする現代人の姿がほの見える。

 「成熟社会のいま、劇的に景気が良くなるなんて誰も信じていないですよね。将来への不安があり不信がある。日本の現在の“立ち位置”を書き残し、考えないといけないことや違う道があることも示す-。そんな作品も広い意味で『震災後文学』だと思う」

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