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なぜ相次ぐ空港保安検査ミス 「喜ばれない仕事」の厳しい労働環境

 空港の保安検査員が乗客の刃物を見落とすミスが相次いでいる。世界各国でテロ事件が続発する中、日本の空港への信頼を傷つけかねない重大な事態。背景として指摘されているのは、保安検査という「お客さんに喜ばれない仕事」を担う厳しさゆえに、離職率が高く、人材が育っていない現状だ。「全国で同様の事案が発生していてもおかしくない」。空港関係者は、今回の事態は氷山の一角との見方を示している。

■「人為的なミス」

 9月26日、大阪(伊丹)空港の全日空の保安検査場で、検査員が乗客の手荷物にあった折り畳みナイフを確認したにもかかわらず、誤って返還した。このため発着便30便以上が欠航、さらに羽田空港でもこの乗客のナイフをエックス線検査で見落としたことが判明した。伊丹空港では10月と11月に刃物を見落とすミスが日航の検査場を含め少なくとも計3回発生している。

 空港の保安検査は航空法に基づき航空会社が責任を負うことになっているが、実際には民間警備会社などに委託するケースが多い。羽田の一部と伊丹の保安検査は警備会社「にしけい」(福岡市)が担当。同社はほかに福岡など3空港で保安検査を行っている。「人為的なミスと言わざるを得ない。会社全体で再発防止に取り組みたい」。同社空港保安事業本部の担当者は言葉少なに語った。

■「精神的にしんどい」

 「お客さんに怒鳴られているのを何度もみたことがある」。国内のある空港の関係者は、検査員の仕事の実態をこう打ち明ける。早朝や深夜に及ぶ不規則な勤務。旅客の手荷物検査やボディーチェックで喜ばれることはない。「お客さんが笑顔で対応してくれず、精神的にしんどい」という。

 一方、待遇は決していいとはいえない。厚生労働省の毎月勤労統計調査によると、検査員が含まれる警備業の30人以上の事業所の昨年度の平均月給は約23万7千円。全産業平均に比べ約13万3千円低かった。

 大規模な空港の場合、警備会社は保安検査場を使用する複数の航空会社から委託を受けており、契約料を引き上げるためには多くの受託先との交渉が必要だ。格安航空会社(LCC)の登場で航空券価格が下落傾向にある中、委託料引き上げ交渉は簡単ではない。

 検査員の退職は後を絶たず、結果的に効果的な検査方法や旅客のクレーム対応の仕方などを身につけた熟練の人材が不足する。成田空港では平成28年4月に約940人いた検査員のうち、4分の1以上の約240人が1年後に辞めていたことが明らかになった。

 桜美林大の戸崎肇教授(航空政策)は「機内に持ち込まれる手荷物が増え、危険物の発見が難しくなる一方、経験のある検査員が少なくなっている。人間だけでは限界があり、人工知能(AI)による識別など技術を導入することが不可欠だ」と指摘している。

■強い危機感、対策強化急ぐ

 刃物などの航空機内の持ち込みは、テロやハイジャック、事故につながる恐れがあり、航空法などで禁止されている。検査で発見し、原則、没収すべきものだが、人為的な見逃しがなくならないのが現実だ。

 国土交通省は、隠し持った刃物などの危険物を服の上から検知できる「ボディースキャナー」など、人間による検査の限界を補う先進的機器の導入を進め、航空会社などと協議して教育カリキュラムの向上も急いでいる。

 米国では、2001年の米中枢同時テロで、航空機を乗っ取りビルに突っ込んだテロリストが、凶器を持ったまま保安検査を通過したことが判明。ずさんな検査が問題化し、保安検査を政府が直轄し、政府職員が行うようになった。

 しかし、日本ではそうした対策は検討されていない。航空評論家の青木謙知氏は「日本の検査員は世界的に質が高い。公務員でなければ検査の質が落ちるとはいえない」と指摘する。

 ただ、東京五輪を前に、より厳格な検査が求められているのも事実。国交省でもこうした危機感は強い。今回のように見逃しが発覚し、保安検査を経た安全区域にあたる「クリーンエリア」に危険物が持ち込まれれば、すべての検査をすぐやり直すことを各航空会社に求めている。

 最近の刃物見逃しについて、警備関係者は「全世界のクリーンエリアが航空機で直結しており、リスクが一気に拡散する重大事だった」と厳しく批判した。

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