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【産経抄】
6月12日

 今年3月から日本で公開されている米映画「15時17分、パリ行き」は、異色の作品といえる。2015年8月にアムステルダム発パリ行きの特急列車内で起きた、テロ事件を題材にしている。イスラム過激派の男が突然、乗客に向かって発砲を始めた。乗務員が一目散に逃げ出すなか、テロリストを取り押さえたのは、3人の幼なじみの米国人旅行者だった。

 ▼3人は乗客554人の命を救ったヒーローとして称賛される。当初、アドバイザーとして制作に参加していた3人を、クリント・イーストウッド監督はなんと本人役として主役に抜擢(ばってき)する。事件で一人の死者も出なかったからこそ、実現した企画であろう。

 ▼9日夜、神奈川県内を走行中の東海道新幹線車内で、22歳の無職の男が振りかざした凶器はナタだった。近くにいた女性はいきなり襲われ、血だらけになりながら必死で逃げる。女性の悲鳴で、車内はパニック状態となった。

 ▼女性をかばって止めに入ったのが、兵庫県尼崎市の会社員、梅田耕太郎さん(38)である。勇敢な行動がなかったら、被害者はもっと増えていたはずだ。梅田さんは男に、首や胸、肩を数十カ所も切りつけられて、凶行の犠牲となった。男は「むしゃくしゃして誰でもよかった」と供述している。

 ▼東海道新幹線では3年前、71歳の男がガソリンをかぶって火を付け、乗客の女性が巻き込まれて亡くなる事件も起こっている。JR東海は車内に防犯カメラを設置するなど、犯罪抑止に努めてきた。ただ、乗客の荷物検査については利便性の面から実現は難しい。

 ▼では、車内の安全をいかに確保するのか。東京五輪を2年後に控えて、喫緊の課題である。いつまでも、乗客の英雄的行為に頼っているわけにはいかない。

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