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【東日本歴史事件簿】鬼熊、恋の復讐劇(下)突然の警察方針転換、標的失った熊は毒とカミソリで…

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【東日本歴史事件簿】
鬼熊、恋の復讐劇(下)突然の警察方針転換、標的失った熊は毒とカミソリで…

鬼熊事件の容疑者、岩淵熊次郎が自殺を図り、運ばれていく様子=千葉県久賀村(現・多古町)(時事新報・大正15年10月1日)

ふびんな熊の妻子

 熊次郎の妻よね(37)と潤蔵(13)以下5人の子供は、夫の凶行後約6週間、五木田清方にて静かに暮らしていた。潤蔵は熊の兄、清次郎の家で農業の手伝いをしながら小学校に通い、よねは、五木田の養蚕の手伝いをしている。熊の自殺後、久賀村の自宅に戻った妻よねを訪ねるとまず5人の子供に取り囲まれた。よねは、事件以来、夫の身の上を案じて面やつれした寂しい姿で洗いざらしの木綿着の袖を涙で濡らしながら、「熊さんが逃げてから遅かれ早かれ、こうした日の来ることは覚悟しておりながらも朝になると烏の鳴き声が悪くはないか、夜になるとまた人を斬りはしまいかと案じない日はなかった。ふだん子供をかわいがっていましたので、さぞ顔が見たいだろう、無事でいてくれるようにと神様に祈って毎日案じておりました。今日、これから早速、子供を連れて駆けつけ死に目に会わしてやりたいと思いますが、世間様の手前、それすら迷っております」と泣き伏し、5人の子供も母にすがって泣いた。今後は、近くで駄菓子類を扱う小さな店を開いて子供たちを育てていく予定だという。

一目置かれた「佐原の親分」

 2人の女に情火を燃やして大惨劇を演じた熊次郎。大勢の子供に取り巻かれ、いいお父さんであるべき、熊を家庭からあらぬ女へ誘惑したのは、生来止められない酒と、どこまでも惑溺していく一本気、ケンカ好きで単純ではあるが頼まれれば後へ引かぬ侠客肌だった。「佐原の親分」という気持ちが多分に自分の中にあっただろうし、そこが醜男な彼に情女ができるわけでもあった。5尺5分(約153センチ)しかなかったが、草相撲の大関だったこともあり、10年前には青年団のマラソン選手として健脚を誇った。久賀村密林へ最初のクワを入れたのは熊次郎だとも言われ、出沼の熊と言えば子供にもしられているほど。残忍であるが単純で侠気があり、いわゆる善にも強いが悪にも強い以上な性格の持ち主。こういうところが、鬼熊は憎めない人気者と世間が噂する所以であろう。

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