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「いよいよ明日逮捕だ」 連続企業爆破事件・世紀のスクープ 警視庁記者たちが震えた40年目の真実

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「いよいよ明日逮捕だ」 連続企業爆破事件・世紀のスクープ 警視庁記者たちが震えた40年目の真実

昭和49年8月30日、東京都千代田区丸の内の三菱重工ビル(右)で起きた爆弾テロ事件。昭和50年5月19日の産経新聞朝刊は連続企業爆破犯に逮捕状の特ダネを報じた(コラージュ写真、画像を一部加工しています)

 《この事件は終わっていない 新聞記者が特ダネを目指すのはなぜか》

 鈴木 この事件は終わっていない。事件そのものが未解決。犯人は捕まったが、超法規的な措置で一部は釈放されている。首相官邸にドローンが飛ばされた。こんな事件が起きて、日本全体に緊張感がない。今やろうと思えば、ドローンに積んでできる。三菱重工事件では、犯人をローラー作戦であぶり出そうとしたが、それでも彼らは爆弾を作ることができた。ローラー作戦で、より一層、地下に潜ったんだろう。

 生原 なぜ我々は危険を犯してまで、スクープを飛ばしたか。あのときは最大限の配慮をしたから、アジト周辺の住民を巻き込むこともなかった。新聞が特ダネを目指すのは宿命。新聞記者はニュースという獲物を追う猟犬だと思う。日ごろから猟犬としての本能を磨いておかないと、当局の発表だけを書いていたら隠されたニュースを仕留めることができない。それが、新聞記者だし、事件記者だと思う。

 山崎 事件記者は取材が難しいとされるが、ある意味、楽な場所かもしれない。捜査員に近づき、信頼関係を築き、情報を聞き出す。物事が進んでいる中でやっていくわけだから、そう意味では楽だと思う。事件記者以外でも、自分が担当しているエリアについて、今起きていることを読者に伝える義務がある。その過程で新聞記者同士の競争になる。警察でも、それ以外の取材対象でも情報を取ることは同じだ。「第3段階」と私は言っているが、取材をしている過程で「これはおかしいだろう」という事案にあったら、書かなければならない。そうしないと、評論紙になってしまう。

 生原 新聞記者の特ダネ争いへのエネルギーが、隠された事実を暴き出す力になると思う。政府だって、企業だって、いろんなことを隠していますよ。発表だけではわからないことをあぶり出す。特ダネを追い続ける本能やエネルギーがあるからこそ、暴き出せる。当局は嘘は発表しないけど、都合の悪いことを隠す「自由」はある。真実を掘り出して読者に届けるのが我々新聞記者の仕事だ。

 《突き抜けた仕事の記者魂 脱帽した公安捜査員》

 公安警察の威信をかけて犯人グループを追った捜査員たちは、産経新聞のスクープをどう受け止めたのか。特ダネが1面を飾った40年前の「あの日」の思いを、OBたちに聞いた。

 「朝刊を見て、目を疑った。『えっ』と言葉を失う感じ。まるで、見出しが躍っているようだった」。昭和50年5月19日早朝。犯人逮捕に向かう最中、駅にあった平積みの朝刊で記事を知った元捜査員は、当時をこう振り返った。

 《爆破犯に逮捕状》《けさ10カ所を家宅捜索》。一部の幹部を除き、記事が掲載されることを知らなかった捜査官たちは度肝を抜かれ、うなるしかなかった。

 「続報も出て、捜査員の苦労話まで載っていた。刑事だった自分が言うのは筋違いかもしれないが、ああいう突き抜けた仕事をしてこそ記者なんでしょう。脱帽するしかなかった」

 一方で、犯人の逃走を招きかねなかった特ダネに複雑な思いもある。捜査の初動から実行犯割り出しなどに関わった別のOBは「刑事としては難しい問題。報道することが正しかったのか、正しくなかったかは歴史が判断するものでは」と話す。

 捜査上知り得た秘密を守る「保秘」。家族、時には同僚さえあざむき、何も語らない。秘密は墓場まで持っていく命題は公安捜査員にとって当然だった。それでも取材は熾烈(しれつ)を極めた。

 「われわれも必死だったが記者も必死。執念たるやすごいものがあった」とOB。深夜帰宅すると、夜回り記者の姿。追い払って翌朝、家を出ると、また食らいついてくる。あっと驚く現場に現れることもあった。

 インターネットはなく、自分の足で稼ぐしかなかった時代。捜査員は「日本の国を守るため、全てをささげる」と覚悟し、不眠不休で家庭も犠牲にして事件を追った。「保秘は徹底してるから、一日休むと置いてけぼり。とにかく前のめりだった。だから、同じような記者の姿に感じるものがあったのかもしれない」

 後に公安部幹部を務めたOBはこう語る。「警察と報道は絶対になれ合ってはいけない。だが、一番大切なのは尊敬と信頼。昔も今も、それは変わらない」

【連続企業爆破事件】

 昭和49から50年にかけて東京都千代田区にあった三菱重工業本社ビルをはじめ、大成建設、間組など海外進出企業ばかりを狙った11件の爆破事件が起きた。

 三菱重工事件では、爆弾闘争教本「腹腹時計」を参考に、ダイナマイト700本分とされる混合爆弾が使われ、8人が死亡、376人が重軽傷を負う大惨事となった。

 過激派「東アジア反日武装戦線」の「狼(おおかみ)」「大地の牙」「さそり」の3つのグループが犯行声明文を出し、警視庁は9カ月にわたる内偵捜査の末、50年5月19日、リーダーの大道寺将司死刑囚ら8人を一斉に逮捕した。

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