【被害者・遺族は問う】(6)横浜OL殺害事件 渡辺保さん(69) 娘と妻に「胸張って報告できる」 - 産経ニュース

【被害者・遺族は問う】(6)横浜OL殺害事件 渡辺保さん(69) 娘と妻に「胸張って報告できる」

あすの会副代表幹事を務めた渡辺保さん。「明日の会は生きる糧でした」と話す(加藤園子撮影)
 《平成17年3月。駅から自宅まで一人で歩いて帰宅する途中だった会社員、渡辺美保さん=当時(22)=を殺害したとして、殺人罪などに問われた同級生の男に横浜地裁が無期懲役を言い渡した。男は退廷時、傍聴していた父親の保さん(69)ら遺族に向かって叫んだ。「お前らが(駅に)迎えに行かなかったから娘は死んだんだよ」》
 なんだこいつは、と思いました。私たちがバー(法廷を傍聴席から仕切る柵)の外側にいたから言えたのでしょう。
 《20年に被害者参加制度が導入されるまで、遺族は柵の外での傍聴しか許されなかった》
 美保は夢の中にいるような、ほんわかとした子でした。事件後は3年間も犯人が分からず、なぜ優しい娘が突然亡くなったのか、考えては涙がこぼれました。しかも男は自首したのに裁判では無罪を主張。否認の言葉に腹が立ち「嘘つくんじゃねえよ」と傍聴席でつぶやくと、すかさず裁判所職員に「静かに」といわれました。当時、裁判では遺族は被告人質問もできず、もどかしい時間でした。
 《18年8月には、PTSD(心的外傷後ストレス障害)だった妻の啓子さん=当時(53)=が、電車にはねられ死亡した》
 社交的だった妻は事件後、突然「私死ぬね」と言うなど精神的におかしくなってしまって、心療内科に通っていました。事故は心の病が原因でしょう。男に2人を殺されたと思っています。
 《遺族への支援環境に問題意識を持った渡辺さんは、定年退職後、全国犯罪被害者の会(あすの会)の副代表幹事に就任。内閣府の犯罪被害者等施策推進会議で専門委員も務め、第3次犯罪被害者等基本計画の策定に携わった》
 計画の焦点は経済支援。当初、会議は経済支援の議論に後ろ向きでしたが、最終的に内閣府が「渡辺委員が要望した項目を議題にします」と言ってくれました。項目はあすの会でまとめた「重傷病給付金の期間と上限額の撤廃」など4点で、計画にも反映されました。
 《「被害者が創る条例研究会」の世話人も務め、各地の自治体で被害者支援条例の制定を目指している》
 今、足りないと感じるのは日常支援。自治体には医療や福祉サービスがあります。それらを相談者ごとに紹介してほしいです。私たちの時は警察しか相談先がありませんでした。妻の心療内科は1回4千~5千円かかっていたのですが、5年たってやっと横浜市に医療費の補助があると知ったのです。補助を申請すれば1回500円です。病院も不親切でしたが、市には制度に精通した職員がいる。自治体に窓口を置くのは意味のあることです。
 《活動を続けるのは、大切な家族のためでもある》
 長女も妻も失ったけど、あの世で再会したときに「お父さん、これだけのことやったよ」って胸張って報告できると思います。妻は今も空の上から「やっぱり優秀な人ね」と感じてくれている…かもしれないですね。あすの会は生きる糧でした。解散は残念ですが、これからは条例研究会で成果を出し、併せて天国で報告したいです。=随時掲載
横浜OL殺害事件 平成12年10月、横浜市瀬谷区の路上で、近くに住む会社員の渡辺美保さんが殺害された。約3年後の15年9月に、自宅から約50メートルの距離に住んでいた美保さんの中学の同級生の男が自首。男は美保さんに好意を寄せいていたが、話をしたことはなかった。男は刑事裁判で否認に転じたが、19年に無期懲役が確定した。18年8月には母の啓子さんが横浜市内の踏切で電車にはねられ死亡した。父の保さんが男に損害賠償を求めた訴訟では、約5510万円の支払いを命じる判決が23年に確定したが、支払いはない。