(6) 想定外だった?反対運動 韓国系財閥企業は「甘くみていたんだ」 静岡・伊東

太陽光発電は人を幸せにするか
伊豆高原メガソーラーパーク発電所の林地開発許可を与えないよう難波喬司副知事(右)に要望する伊東市八幡野の地元住民ら=平成30年5月、静岡県庁(田中万紀撮影)

 「誠に失礼ながら、あなたは取材不足かと思います」

 メールの返信にはそうあった。差出人は岩渕寛二さん(65)。伊豆メガソーラーパーク発電所の事業主体である「伊豆メガソーラーパーク合同会社」(東京都)に取材依頼を出していた。岩渕さんは、建設予定地である静岡県伊東市八幡野で、宿泊業とレストランを営んでいる。てっきり合同会社の主力会社であるハンファエナジージャパン(東京都港区、ハンファ)関係者から返信があると思っていた。

 岩渕さんは快活な笑顔を見せて、伊豆メガソーラーパーク発電所の模型を前に語った。

 「当時は条例がなかったから今になってメガソーラー計画を止めることは不可能。ならば条件闘争をしようと思ったわけです」

 そう言って岩渕さんはメガソーラーの予定地である伊雄山に案内した。「ここは公園にする予定です。ハンファはこちらの話をよく聞いてくれる。訴訟を起こすこともできるが、今は伊東市との関係を壊したくないといって自重しているのです」

 岩渕さん曰く「ハンファは調整池も4つ作るなど、地元の声に譲歩している。伊東市民の間にも太陽光発電所の計画に耳を傾ける人も出てきた」

 ただ、取材を進めると、このメガソーラー計画には複雑な事情があることが分かってきた。

 関係者によると、八幡野の土地は、測量費だけでもかなりの経費がかかったという。登記簿によると、平成26年10月、不動産会社「スリーエル」(東京都中央区)が、伊豆メガソーラーパーク合同会社に売った。電力会社から電気系統に接続することに同意を得ている(電気の接続契約を結んでいる)、IDと呼ばれる設備認定番号代込みで約16億円の価格提示があったと、関係者は明かす。

 「平成27年2月ごろ、測量が終わり、6月か7月ごろになって、林地開発許可だけではだめだ。宅地造成許可が必要だということが分かった。伊東市の担当者は宅造(宅地造成許可)が必要だとは言ってくれなかったし、合同会社の関係者は、こうした許可が必要なことすら知らなかったんです」

 この関係者の話によると、ハンファが特定目的会社(SPC)である伊豆メガソーラーパーク合同会社を購入するまでの間、同社が転売話をもちかけた会社は十数社に上ったという。

 「ゼネコンがやってきて、伊雄山に入って調べたこともあった。だが、あまりに急傾斜なことや、造成費用がかかる、と最後は尻ごみしてしまった」

 そこに最後にハンファが手を挙げたというわけだ。

 発電所の立地に適さない山という意味で、さきの関係者は伊雄山を「クズ山」と呼んだ。「ハンファはクズ山をつかまされたんです。反対運動が起こるのは当然ですよ」

 今年9月になり、妙な噂が東京都内の太陽光業界関係者の耳に入るようになった。「ハンファが伊東から手を引いて、別の外資に転売するらしい」

 ハンファの幹部が複数の太陽光発電業者に接触し、善後策を協議しているというのだ。岩渕さんは、これらの話を「あり得ないと思う」と否定。「ハンファは建設をあきらめないでしょう」と話すが、「『こんなはずではなかった』と戸惑っているのは事実」とも話す。

 伊豆高原メガソーラーパーク発電所を運営する事業者は平成26年に設立された伊豆メガソーラーパーク合同会社。太陽光事業関連会社「シリコンバンク」(東京都中央区)が100%出資で設立した。29年1月、同社にハンファが資本参加。登記簿謄本によると、今年7月24日、シリコンバンクは「退社」。現在はハンファの100%出資会社となった。8月末には東京都中央区から伊東市に本店を移している、と関係者は言う。

 「当初の予定では昨年夏には着工しているはずが、住民の反対運動などで遅れに遅れ、ハンファとシリコンバンクの契約は何度か延長になった。最終的に今年1月ごろに最後の契約をしたんです。もたつくうちに反対の声が高まってしまった」(別の関係者)。

 さらに地元関係者は次のように話す。「伊雄山は、かつてゴルフ場計画への反対運動でも盛り上がり、バブル崩壊もあって事業者は開発を断念した。八幡野は反対運動を結実させた経験がある。ハンファは日本でいくつも太陽光発電所を造っているが、これほど反対されたことがなく、高をくくっていたんだろう」

 複数の関係者によると、ハンファは市条例の有効性を巡り、伊東市を相手取って訴訟を起こすことも辞さないと方針変更したとされ、今後も波乱が予想される。(WEB編集チーム 三枝玄太郎)

 ハンファエナジージャパン ハンファグループのホームページ(HP)などによると、ハンファエナジージャパンはハンファグループの日本法人。平成19年に設立。資本金1億10万円。平成27年から太陽光発電事業に乗り出した。日本国内で稼働中の太陽光発電所が10カ所、建設中が8カ所、開発中が静岡県伊東市の伊豆高原を含め、8カ所。平成27年1月に運転を始めた大分県杵築市の「ハンファソーラーパワー杵築」は敷地面積が約30ヘクタールで同社で最大だが、伊東市の大規模太陽光発電所(メガソーラー)が完成すれば、同社が手がけた国内の太陽光発電所では最大となる。

 ハンファグループ 同グループのホームページ(HP)などによると、朝鮮戦争の最中の1952年に「韓国火薬」として創業。本社ソウル。韓国の10大財閥の一つ。2010年、太陽光発電に乗り出した。現在は生保、損保、銀行などの金融をはじめ、機械製造、建設、化学製品などのコングロマリットを形成し、世界展開。大田(テジョン)を本拠とする野球チーム、ハンファ・イーグルスを持つことでも知られる。