「いつも何かにおびえていた」 白石隆浩容疑者27年の半生 影薄い少年→夜の街で挫折…そして変わった顔つき

座間9遺体1カ月
白石隆浩容疑者が一時、身を投じた新宿・歌舞伎町

 神奈川県座間市のアパート一室から9人の遺体が見つかった事件は30日、発覚から1カ月が過ぎた。警視庁高尾署捜査本部は9人のうち1人の殺人容疑で再逮捕した白石隆浩容疑者(27)の捜査を本格化させているが、今後の焦点は動機の解明に移るとみられる。少年時代、周囲から「影が薄い」と評された白石容疑者。夜の街でも行き場所をなくし、最後に流れ着いたのが9人の遺体と暮らした現場アパートだった。何が凶行に走らせたのか。27年の半生を追った。

 「いつも何かにおびえていた」。小中学校で同級生だった男性会社員(27)は当時の印象をこう振り返る。関係者によると、白石容疑者は平成6年ごろ、自動車関連の仕事をする父親と母親、妹とともに座間市の一軒家に移り住んだ。同級生は「影が薄い子だった」と口をそろえる。

 横浜市内の県立高校を卒業後は、大手スーパーに就職。目立ったトラブルはなかったが、23年10月、「自己都合」で退職してから、人生の軌道は乱れ始める。海老名市のパチンコ店など、神奈川県内でいくつかの職を転々とした末にたどり着いたのが、ネオンきらめく繁華街だった。

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 関係者によると、白石容疑者は昨年ごろまで、東京・歌舞伎町を拠点とした女性を風俗店などに紹介するスカウト会社に勤務していた。「歌舞伎町でよく見かける顔なじみのスカウトだった」と、居酒屋の客引きアルバイトをする都内の男子大学生(19)は振り返る。

 出会い系サイトや、ツイッターなどのSNS(会員制交流サイト)で女性をスカウトすることもあった。大学生の友人女性も昨年10月ごろ、白石容疑者から「出稼ぎ」と称する地方の風俗店での勤務や、内容が判然としない海外での仕事に誘われたが、誘いに応じることはなかったという。だが、今年1月ごろからはツイッター上に「悪徳スカウト」などと悪評が書き込まれるように。関係者によると、スカウトした女性と金銭トラブルを起こすこともあったという。

 そして2月、売春させると知りながら風俗店に女性を紹介したとして、職業安定法違反容疑で茨城県警に逮捕され、5月に執行猶予付きの有罪判決を受けた。

 「自分から積極的に話すタイプじゃないから、向いてなかった」。捜査本部の調べに、白石容疑者はスカウト時代に味わった挫折感をこう吐露したという。

 逮捕後、「夜の街」を後にした白石容疑者は実家に戻る。その直後の6月には、自衛官候補生の採用試験に応募していたことも新たに確認された。産経新聞が入手した応募書類には、逮捕時より髪を短く切りそろえ、眼鏡をかけた白石容疑者の近影が添付されていた。だが、希望がかなった形跡はなく、定職に就くこともなかった。

 父親に「生きている意味がない」と漏らしたのもこの頃だ。「飼い犬のにおいが耐えられない」。こんな理由で折り合いが悪くなった父親と住む家を飛び出し、野宿を繰り返すようになった。実家でも居場所を失っていく一方で、スカウト時代に使い慣れたツイッターで不特定多数の人と交流を重ねていった。

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 インターネットの海に探し求めたのは「自殺志願」の投稿だった。8月13日には、ツイッターで知り合った厚木市の女性(21)、横須賀市の男性(20)と公園で夜通し飲み明かした。知り合って間もないこの女性が最初の犠牲者となったとみられる。

 8月22日に現場アパートに入居してから、暗い衝動はエスカレート。SNSで女性を誘い出しては犯行を重ねていったという。存在感が希薄だった学生時代とは対照的な大胆さ。同級生は「驚いたのは顔つきが変わっていたこと。当時と違って妙に自信ありげなのが印象的だった」と話した。

 「女性を斡旋(あっせん)する仕事に就いたことが分岐点になったのでは」とみるのは、犯罪心理に詳しい長谷川博一・こころぎふ臨床心理センター長だ。「女性を誘惑し手引きするという感覚は、受動的で成功体験のないそれまでの半生で味わったことがないものだったのだろう。抑圧してきた負の感情や攻撃性が表れるようになり、殺人へと発展していった可能性がある」と分析している。