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【湯浅博の世界読解】
トランプ流・瀬戸際外交の先手

23日、米ホワイトハウスで記者団の質問に答えるトランプ大統領(UPI=共同) 23日、米ホワイトハウスで記者団の質問に答えるトランプ大統領(UPI=共同)

 トランプ米大統領は米朝首脳会談の中止を宣言する“衝撃書簡”によって、効果的なブレーキを踏んだ。トランプ氏が半島危機回避のショーマンシップを誇示しているうちに、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長が中国の習近平国家主席との2度の会談を通じて強気に転じていたからだ。

 トランプ流の瀬戸際外交は、効き目が十分だった。北朝鮮の3代目は先手を打たれて、もはや「交渉の決裂」や「軍事の挑発」など本家の瀬戸際外交が使えなくなった。その上、中国の後ろ盾という1枚カードでは、かえって米国の怒りを買って、韓国の文在寅大統領との再会談という2枚目のカードを切らざるをえなかった。

 6月12日のシンガポールでの首脳会談まで、北がどこまで歩み寄れるのかに焦点が移った。ここに至るまで北の動きは、米中2つの大国が相手の危ういゲームであった。

 北の3代目は超大国との交渉にあたって、厳しい制裁をすり抜ける経済支援の担保が必要だった。3月に列車で20時間かけて北京入りしたのも、今月上旬に大連に飛んで習主席と2度目の会談をしたのも、米国からの圧力に耐える制裁緩和を要請するためであろう。

 中国からみると、米国という「戦略的競争相手」と向かい合うためにも、北には安定した緩衝地帯であってほしい。同時に、3代目が、米国の同盟体制を切り崩す対米カードになる余地があるなら、適度に手なずける方が得策のはずだ。

 中国は米朝首脳会談の計画が持ち上がったことで、なんの外交努力もなく反抗的な金委員長との関係を修復でき、国境貿易の緩和ができた。原油の対北輸出を増やし、北からの女性労働者を受け入れはじめた。さらに北は、石炭を市場価格以下の値段で、中国に輸出する準備を進めているという(米ウェブ誌「ナショナル・インタレスト」)。

 3代目は中国の後ろ盾を得て、対米交渉で強気に出てきた。ポンペオ国務長官のいう「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化」(CVID)を拒否したうえで、あくまでも「体制保証」を狙った。北には核の製造技術が手元にあるし、核弾頭は隠せる方法がいくらでもある。

 トランプ氏は習氏が中朝首脳会談と前後して、非核化に向けた「段階的で同時並行的な措置」を求める3代目の立場を公然と支持したことが気に入らない。米紙の社説は、国連制裁を破るような中国の行為を批判し、北と取引のある中国企業への経済制裁の強化を呼びかけている。

 トランプ氏の衝撃書簡に示された不満の含意は、北が「朝鮮半島の非核化」を主張することで核を温存しようとすることにある。北の3代目は、「北朝鮮の非核化」とはいわずに、一貫して「半島の非核化」としてトランプ政権が求める「リビア方式」をしりぞけてきたからだ。

 リビアの場合は、核の関連資材を米国に引き渡したのであって、核開発に成功している北とは決定的に違うとの建前だ。3代目からすると、交渉のテーブルにあるのは大量破壊兵器の相互削減でなければならない。

 「半島の非核化」なら、韓国に核がないことの厳格な証明が必要だし、米国の拡大抑止にまで対象を広げて、在韓・在日米軍の撤退にまで要求を引き上げることも考えられる。しかし、トランプ氏の急ブレーキによって、北が首脳会談の軌道に戻るよう望んだことから、交渉の攻守が逆転した。

     (東京特派員)

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