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ローカルジャーナリズムの死と「民主主義の衰退」 ある地方紙の運命に見たメディアの未来図

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ローカルジャーナリズムの死と「民主主義の衰退」 ある地方紙の運命に見たメディアの未来図

政府機関に対するこのような不信は、以前から積み重なってきた。なかでもオークランドでは不満が急速に増大しているようだ。イーストベイ・タイムズは16年春の社説で、消防士が指摘した消防法違反の80パーセントがまったく点検されなかったことを明らかにした報道を引き合いに出し、「オークランド市の行政機能は、果てしない機能不全に陥っている」と書き出している。

その4日前のこと。『サンフランシスコ・クロニクル』のコラムニストであるオーティス・R・テイラーは、オークランド市内で増え続けるテント村、住宅火災、荒れた道路、警察署のスキャンダルに不満を表し、「オークランド市は崩壊しつつある」と記している

同市の予算承認期限の数日前には、抗議者たちによって市議会は中断し、審議の遅れを余儀なくされた。なかには自分をチェーンで演壇につなぐ者もいた。夏休み前の最後の市議会では、「われわれが望むのは何だ? 市民のための予算だ!」というスローガンを繰り返しながら、市庁舎内を行進する地元の労働組合関係者も目にした。

そして訪れるコミュニティーの死

イーストベイ・タイムズにどのような運命が待ち受けようと、それは全米の主要都市をはじめ、各地の小さな街でも起きることなのだ。デジタル・ファーストは、カリフォルニア州サンタアナの『オレンジ・カウンティ・レジスター』、コロラド州キャノンシティーの『デイリー・レコード』、ミシガン州ディアーボーンの『プレス・アンド・ガイド』など、全米に数十もの地方新聞社を所有している。

そして話は広告に戻る。これまでずっと、地方紙は地元企業に支えられてきた。それこそ、サンノゼのハンク・コカの家具屋のようなところだ。その関係性は、商取引とジャーナリズムを持続させてきた共生関係と言っていい。

米国の新聞と、その周囲のコミュニティーの死が早まりつつあることは、わたしたちの時代の深刻なニュースのひとつかもしれない。だが、こうした動きについては新聞社自身が伝えようとも、伝える体制をとろうともしていないのだ。

『タイムズ』を含む新聞社を代表する太平洋地区メディア労働組合の幹部であるカール・ホールは、このように問う。「イーストベイ・タイムズは、ベイエリアの大半の地域にとってローカルジャーナリズムの柱です。その柱がなくなったら、何かが崩壊してしまうように思うでしょう?」

「ポップアップ広告なんてじゃまくさい」

オークランドの大通りにあるオフィスビルに掲げられた看板は、誰も変えようとしないまま残されていた。クラシックなフォントが使われた『オークランド・トリビューン』の看板である。17年5月のある朝、同紙がイーストベイ・タイムズと統合してから1年以上が経過していた。

社内では、誰かがお祝いの風船をシャンパンのボトルに結びつけたが、その風船はしぼみ、ボトルも空になってしまった。編集部にも、ほとんど人がいない。ピールとデボルトは、陽に照らされた会議室に座っていた。

デボルトは、ベイエリア・ニュース・グループで働き始めた5年前から、タイムズによる地方自治体への取材力が落ちていることに気づいたのだという。ピールもゴーストシップ火災の取材(消防署が知っていたことや、それを知った時期などを掘り下げていた)で手一杯だという。「正直、それ以外には手が回らないんだ。ぼくがほぼ特定した政治家は詐欺師みたいなもので、ここ5カ月は逃げ回っている。ほかに調べる人がいなかったからね」と彼は言う。

誰も気にしないのだろうか--。そんな疑問が改めて首をもたげてくる。読者はまだ同紙が提供する地元のニュースに価値を見いだしているのだと、デボルトは力説する。「誰かに会うと、『記事を読んでますよ。これからも頑張って下さいね』と話しかけてもらえますから」

そこにピールが口を挟む。「確かにそうだけど、彼らは記事をスマートフォンで読んでいるのさ。つまり、購読料は払っていない。しかもポップアップ広告なんてじゃまくさいと思ってるんだ」

それに対してデボルトは、こう答える。「そうだね、実際ぼくもそう思うよ」。ちょっとしたユーモアのつもりだったようだが、どちらからも笑いはこぼれなかった。

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