産経ニュース

ローカルジャーナリズムの死と「民主主義の衰退」 ある地方紙の運命に見たメディアの未来図

WIRED WIRED

記事詳細

更新


ローカルジャーナリズムの死と「民主主義の衰退」 ある地方紙の運命に見たメディアの未来図

フェイスブックが提供するインフラ

プレゼンが終わったあと、マブリーに個別に質問を浴びせかけた。イーストベイ・タイムズのように規模の大きくない地方メディアは、具体的にどうすればFacebookが提供するようなインフラを活用できるのか--と。

ヴィデオやスポンサー付きコンテンツが相応の売り上げにつながるのは、ニューヨーク・タイムズのように専門のヴィデオ撮影チームや、スポンサー付きコンテンツの制作に特化したスタジオをもつ場合に限定される。そして、全米の大半の新聞社には、この公式が当てはまらないのだ。

例えば、メルクのような世界的な医薬品メーカーの広告コピーを、ローカル医療専門の記者に依頼したくはないだろう。また、その退屈さゆえに誰も見ないであろう地元のカボチャ祭りのくだらないビデオを、市役所担当の記者に撮影させるのもいいアイデアだとは思えない。

そうした考えについて、マブリーは的を射ていることを認めた。そしてFacebookにより自動生成され、誕生日を祝ってくれるヴィデオについて話し始めた--。

姿を消すカリフォルニア州のローカル紙

8月のカリフォルニア州サンノゼ。木には葉が生い茂り、暖かいが湿気の多い日が続く。ベイエリア・ニュース・グループ本社の近くでは、ハンク・コカの家具屋がセールをしていた。なんと全商品が最大80パーセントオフだ。

オーナーのハンクは4月に他界し、彼が1957年に創業した店は閉店する。この家具屋の運命は、なぜかイーストベイ・タイムズの状況とは無関係に思えない。同じ病状だ。

ベイエリア・ニュース・グループ編集主幹のニール・チェイスは、職場でパープルグレーのボタンダウンを着て腕まくりをして座っていた。壁には過去の地元紙『サンノゼ・マーキュリー・ニュース』の1面が飾られている。ケネディ暗殺から「9.11」、そしてオバマの大統領当選だ。

ベイエリア・ニュース・グループは16年4月、サンノゼ・マーキュリーと『サンマテオ・カウンティ』の両紙を統合し、その名称を『マーキュリー・ニュース』に変更した。これと同じくして、同社は4つの新聞をイーストベイ・タイムズに集約した。姿を消したのは、『オークランド・トリビューン』、ウォルナットクリークの地元紙『コントラ・コスタ・タイムズ』、そしてヘイワードの『デイリー・レヴュー』、フリーモントの『ザ・アーガス』である。

この結果、カリフォルニア州アラメダ郡とコントラコスタ郡を合わせて、独立したローカル紙はたった1つしか残っていない。これらの地域の人口は計270万人以上で、シカゴと同じ規模に相当する。

考えているのは「来週火曜日」の計画

紙媒体の広告と発行部数の両方が減少するなか、ベイエリア・ニュース・グループのチェイスはデジタル版の定期購読による売上増に重点的に取り組んでいるという。全米のほかの新聞各紙と同じで、デジタル広告による収益は、紙媒体の広告と定期購読の減少を相殺できていない。

ベイエリア・ニュース・グループは現在、非購読者がオンラインで読める記事数を制限する従量制システムを、数週間以内に導入しようとしている。ただし、これは程度に違いこそあれ、大手を中心とした全米の多くの新聞社がすでに実施していることだ。

チェイスはその日の新聞をパラパラとめくり、スポンサー付きの紙媒体広告について語り、シロアリ駆除の業者が広告を掲載する天気予報のページを指差した。「彼らのビジネスは天気と関係がある。だから紙面に広告を載せるのではなく、天気予報のページでスポンサーになってもらい、彼らの製品と天気を結びつけるメッセージを伝えてもらうのさ」と、チェイスは言う。

だが、天気予報の欄(スマートフォンに天気予報アプリが入っていることを考えれば、それ自身が時代遅れの感がある)の紙面広告は、イノヴェイションのイメージとは合致しないかもしれない。チェイスは、こうした需要が長期的には貢献していないことを認める。そして、「この先400年の計画を立てているわけじゃない。来週の火曜日のプランを考えているんだ」と話す。彼には選択肢があまりないのだ。

失われた「読者」「売り上げ」、そして「社会性」

ベイエリア・ニュース・グループは、コロラド州デンヴァーに本社があるデジタル・ファースト・メディアの傘下にある。同社はニューヨークのヘッジファンド、オールデン・グローバル・キャピタルが所有している。そのオーナーは、ランドール・ダンカン・スミスである。このスミスという人物は、誰の持ち物でもない。

実際のところ、だれもスミスについてはよく知らないようだ。彼に関する数少ない話の1つ(『ヴィレッジヴォイス』の1999年の記事)では、ある知人が彼についてこう語っている。「ランディーはあまりに裕福で、数年ごとに資産を使い切ってしまうような男です。このため世界の大富豪ランキングには入ってきません」

オールデン・グローバル・キャピタルは2年前、デジタル・ファーストを非公開の投資会社であるアポロ・グローバル・マネジメントに4億ドル(約450億円)で売却しようとした。だが、アポロはそれを断った。

カリフォルニア大学バークレー校の教員であるアラン・ムッターは、デジタル・ファーストがこの先どの程度もつのか疑問視している。ムッターは新聞の元エディターで、デジタルメディアのスタートアップを立ち上げた人物である。

彼は、デジタル・ファーストが地方紙をイーストベイ・タイムズに集約した動きについて、こう語った。「デジタル・ファーストは先細りのビジネスを経営しており、個々の新聞の廃刊もそのことを示しています。もし一連の動きによって収益性を維持できなかった場合、どこで問題が顕在化するのかが課題になるでしょう」

続きを読む

このニュースの写真

  • ローカルジャーナリズムの死と「民主主義の衰退」 ある地方紙の運命に見たメディアの未来図