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凶悪犯罪者の脳を解剖することで、脳科学は「事件の謎」を解明できるのか

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凶悪犯罪者の脳を解剖することで、脳科学は「事件の謎」を解明できるのか

また、新たな経験によって脳は変化する。これは骨相学のようなでたらめではなく、可塑性と呼ばれる現象だ。例えばロンドンのタクシー運転手は、市内の詳細な地図を頭に叩き込まなくてはならないため、結果として海馬が大きくなる(「スーパーマリオ64」をプレイさせた実験で、特定の脳の領域が増大する[日本語版記事]ことも明らかになっている)。心が知覚した刺激と経験が、肉体のつながりを変化させるのだ。

おそらく銃の扱いに長けていた(さらにポーカー好きで、ラスヴェガスのホテルの常連でもあった)スティーヴン・パドックの脳には、そのいずれにもあてはまらない人の脳とは異なる生理的特徴がみられる可能性がある。しかしその特徴は、彼が乱射を続けた理由の説明にはならないだろう。

再発防止に役立つ可能性

「もちろん、脳の特定部位を指して、『この部分は一般にこれこれの情報処理を担う』と言うことはできます」と、プリンストン大学の神経科学者、マイケル・グラズィアーノは言う。「脳の奥深くにある構造を指して、『この部位は情動に深くかかわっていて、ここの活性化と怒りや激情には関連がある』とも言えます。ですが、ある人がほかの人とどう違うのか、なぜ違うのかを、詳細に神経回路のレヴェルで説明するというのは、まったく未知の領域です」

捜査員だけでなく、ラスヴェガスの惨劇の答えを探す人々が求めているのは、ひとつのシナプスである瞬間、抑制されるべきときに発火が起きたことで58人が亡くなり、大勢が負傷し、会場外の多くの人々までもがトラウマを負ったのだ、といった説明だろう。それがわかれば、一応はすべてを理解できるはずだ。だが、そんな決定的瞬間は存在しないし、万一あったとしても、起きてしまったことを変えることはできない。

しかしもしかしたら、悲劇の再発防止には役立つかもしれない。もっと大規模な研究プロジェクトを想像してみよう。100人、あるいは1,000人の大量殺人犯の脳を徹底的に分析し、殺人犯でない人々の脳も同じように調べあげる。これを、どちらが殺人犯の脳かは研究者には知らせない状態で行う。もしかしたら違いが見つかるかもしれない。実際、ある研究者は暴力的サイコパスの脳スキャンを行い、その特異性を報告している。

だが、次に何をすればいいのだろう? 何も悪いことをしていない人に、あなたの脳は殺人犯のものに似ているという理由で、予防的手術や精神薬理学的介入ができるだろうか? 先述のサイコパスを調べた研究者は、自分自身の脳にもサイコパス傾向を見出した。もちろん、彼は殺人犯ではない。

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