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【瀬戸内家族】八朔の実り 島の豊かさに感じた希望 写真家・小池英文

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【瀬戸内家族】
八朔の実り 島の豊かさに感じた希望 写真家・小池英文

納屋に積まれた八朔 納屋に積まれた八朔

 八朔の発祥地因島(いんのしま)(広島県尾道市)には、「はっさくん」なるゆるキャラがいる。性格は「おっとり控えめ、但し因島のことになると熱くなる」。まるで妻の性格を見るようで、つい微笑ましくなってしまう。

 そんなゆるキャラ的特性を有する妻も、結婚して東京に出てくる時はさすがに不安もあったようだ。友人知人も少ない上に、夫は海のものとも山のものとも知れぬ駆け出しの写真家。たしかにあの頃は明日への見通しなどぼく自身何ひとつなかった。「きちんと生活できるんですか」と尋ねられても、「がんばります」と答えるほかない日々だった。

 今週の写真を眺めながら当時を思い出したのは、納屋に積まれた八朔の輝きに、実りの豊かさを改めて感じたからだ。水木しげるの窮乏時代を描いた「ゲゲゲの女房」の中に、結婚当初は道端の草を食用に摘んだエピソードがある。それに比べれば因島では街路樹まで八朔なのだ。とにかく思う存分生きてみようではないか。

 写真に写る八朔は、自分たちで食べるものと、親戚などに配る分だという。もうすぐ今年も八朔の便りが届く季節になる。それを口にするたび、あの頃の不安と島への感謝の思いがしみじみと胸に湧いてくる。

 こいけ・ひでふみ 写真家。東京生まれ。米国の高校卒業後、インドや瀬戸内などの作品を発表。今年1月、写真集「瀬戸内家族」(冬青社)を出版。ウエブサイトはhttp://www.koike.asia/

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