産経WEST

【夕焼けエッセー】友よ 

産経WEST 産経WEST

記事詳細

更新

【夕焼けエッセー】
友よ 

 あのとき君は、新婚ほやほやだったね。覚えてますか、「竹田の小守唄」を3人でよく練習していた頃のことを、私がギターで伴奏をして、よく歌ったね、楽しかったね。

 彼は会社に初めて就職したときの同期生だった。何処(いずこ)へ行くのも、何をするのも一緒、車好きだった彼は免許を取ったと言ってレンタカーを借りてドライブしたり、お互いにスキーが好きだったので、神鍋(かんなべ)によく滑りに行った思い出がある。

 だがある日突然、彼は私に会社を辞めると言ってきた。本人も将来のことをよくよく考えてのことだったのだろう。次の会社に就職してからも暫(しばら)く逢っていたが、その後新潟に転勤することになった。「新潟は雪国やから毎日スキーができるで」とうれしそうに話していた。

 それから暫くして彼から電話がかかってきた。転勤になって久しぶりの懐かしい声は「よぉ~元気か、新潟の酒はうまいで、送ったるから飲むか」と話してきた。私は「そんなおいしい酒やったら一度飲んでみたいな、すぐ送ってくれや」と言って飲める日を楽しみに待っていたのだが、それ以来プツリと音沙汰がない。

 彼は昔から約束を破るような男ではなかったはずだが、年賀状を出してもあて先不明で返ってくる。一体何処で何をしているのか。この歳になって不吉な予感もしないでもないが、果たして今この世に居るのかいないのか、さえも分からない。30年前の姿のままで記憶が止まっている。

 願わくばもう一度彼の懐かしい声を聞きたいのだが。またひょっこり、「よぉ~元気か」と電話がかかってくる日を待っている。

宮崎勉(68) 兵庫県尼崎市

「産経WEST」のランキング