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【夕焼けエッセー】金魚の金ちゃん 

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【夕焼けエッセー】
金魚の金ちゃん 

 夏祭りの季節のことだ。

 久しぶりに縁日の屋台を覗(のぞ)いてみると、体長2センチに満たない小さな金魚が泳いでいた。それを見てひと月前に死んだ我(わ)が家の「金ちゃん」を思い出した。

 「金ちゃん」は10年以上前に娘たちが縁日でもらってきた金魚である。一時期大所帯のときは水槽には15匹の金魚が泳いでいた。ときが過ぎ1匹また1匹と数が減っていき、「金ちゃん」が最後の1匹となってしまった。すべての金魚に名前がついていたわけではない。最後の1匹になってからは、餌をあげるときに「金ちゃん、ごはんだよ」と声をかけていた。水槽をコンコンとつつくと「金ちゃん」は嬉しそうに水面に顔を出した。「金ちゃん」は淋しかったかもしれないが、娘たちも大きくなり、それ以降は数を増やすことはなかった。

 6月18日、大阪で地震が起こった。我が家もかなり揺れたが、幸いにも棚から物が落ちたくらいで大きな被害は無かった。それから3日後、「金ちゃん」は死んだ。前日の夜、餌をやっても水面には上がってこなかったので気になってはいたが、次の日の夜にはプカリと浮いていた。

 叔母は、「地震で水面が揺れて、水槽の壁に当たったのかもしれない」と言った。私は寿命だったのだと思いたい。金魚の寿命は上手く育てれば10年から15年らしい。「金ちゃん」は確実に10年以上は生きていたし、体長は10センチにもなる立派な金魚だった。また、違う命として生まれてくれるように木の根元に埋めてやった。我が家の玄関は寂しくなった。

青山由美(56) 大阪市港区

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