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【夕焼けエッセー】かいとまる 

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【夕焼けエッセー】
かいとまる 

 私は物心ついた頃より公営住宅(今の団地)で育ち、縁あって大和の片田舎に嫁ぎました。その家はとんでもなく古い大きな家であることに気付きました。舅(しゅうと)に廊下は静かに歩けと言われ「やかましい」と叱られたこともありました。

 どうしてこんな家に嫁いだのか、と後悔していたある春の日、大きな「蛇」が藁(わら)屋根の天井の梁(はり)にしっぽを巻き、頭を下にし、ぶら下がっていたのを見つけました。わたしはきっと青ざめていたと思います。舅も姑(しゅうとめ)も「かいとまる」さんがお目覚めやと言って両手を合わせて拝む。家の守り神の蛇のことを「かいとまる」と呼ぶこともはじめて知りました。

 数年前、古家を解体する運びとなり、その春、「かいとまる」は姿を見せませんでした。

 新築した家に住んでいたある日、前栽に小さな「蛇」がじーっと動かず、たたずんでいるのを見つけました。私が主人に告げると「かいとまる」となってこの家を守ってくれていると主人は言い、私もそれを信じていました。

 今年の春彼岸、主人が私の名をしきりに呼ぶのでその方に行くと、なんと倉の2階の「とゆ」の溝に長々と「かいとまる」は横たわっていました。ネズミ、カエルもいなくなったこの家で何を食してこんなに大きくなったのか。私は「かいとまる」に両手を合わせて、お守りくださいと祈りました。

 新築した家は歩いても足音のしない廊下、キッチンは床暖がなされ昔の不自由さはみじんも感じない家。それでも、「かいとまる」は昔のようにやってきてくれたのです。

花井千晴(77) 奈良県大和高田市

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