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【夕焼けエッセー】母の付き添い 

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【夕焼けエッセー】
母の付き添い 

 81歳の母が、右手が上がりにくくなったと言うので、車に乗せて病院へ付き添った。母は、車から降りると、後部座席に積んでいた私の車いすを手際よく出して、運転席のドアの前に広げてくれた。私「右手痛くない?」母「大丈夫、上がりにくいだけ」と。

 母は、私の車いすを押しながら、整形外科の診察室に入った。医師は「どうされましたか?」と私に向かって、聞き始めた。私は「患者はこっちです」と母を指さした。「あーそうでしたか」と、医師は私の方を見てまちがったことをわびた。整形外科に車いすで入ってきたら、誰が見ても患者だと思う。

 医師は、あらためて母に「今日はどうされましたか?」と聞いた。

 私は、既往歴や服用中の薬から始まって、今の母の病状を詳しく説明した。医師は、私の言葉を遮るように「ご本人に聞いています」と。私は、母の付き添いの責任を果たそうと雄弁に語った。「付き添いの方はあちらでお待ちください」とまで言われた。このやかましい付き添いは何もんなのだろうと思ったに違いない。

 今まで私の身体のことで、どれだけたくさんの病院に母に付き添ってもらったことか。仮死状態で生まれ、あちこちの病院に入院し、何度も手術を繰り返し、やっと車を運転できるようになった。こんな時こそ親孝行ができる付き添いがうれしかった。これからが恩返しの本番だと思う。病気にはなってほしくないけど、病院の付き添いでも、買い物でもドライブでも付き添ってあげたい。いつでも言うてね。

柳岡克子(53) 和歌山県御坊市

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