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【夕焼けエッセー】鮒ずしを漬ける

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【夕焼けエッセー】
鮒ずしを漬ける

 今年も7月に入り鮒(ふな)ずしを漬けた。義父母から受け継いで十数年になる。

 テレビ番組で試食をしたタレントが「ウー?」と大仰(おおぎょう)に顔をゆがめると、周りの人々が「あー、やっぱりまずいんだ」と納得の表情を浮かべる。予想通りの反応で番組は成立し、鮒ずしのイメージが定着していく。私たちは「おいしいのにね」と反論する。

 製法は思うほど大変ではない。大きなプラスチックの桶にビニール袋を広げ塩切り鮒と白飯を交互に漬けていく。漬け終わったらビニール袋の口を固く縛り25キロ級の重石を2個積み上げて熟成を待つ。前日に塩切り鮒をきれいに洗うのは夫、私は米を炊いて冷ます。夫婦の共同作業である。

 半年ほど寝かせ、我(わ)が家では正月のおせちの1品として初お目見えする。どんな味に仕上がったか緊張の一瞬である。全国の皆さまにこのやみつきになるおいしさをお届けしたい。しかし、昔は多くの家で漬けていた鮒ずしも、今はほとんど漬けられていない。1匹数千円の高級珍味になってしまった。

 例年は鮒4貫目を漬けていたが今年は半分にした。それでも25匹いた。「7升の米炊いて冷まして又炊いて」いた私の奮闘も嘘みたいに楽であった。

 私たちの鮒ずしを楽しみにしている人たちがいる。夫が重石を持ち上げられるうちは漬けたいと思っている。

橋本博子(69) 大津市

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