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【夕焼けエッセー】姉妹の領域

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【夕焼けエッセー】
姉妹の領域

 「大阪の今日の最高気温は34度。暑くなってきたよ。夏休みにはコチラに遊びにおいで」と、スマホからメッセージを送った。

 すると「遠慮します」。

 にべもなく返事が返ってきた。暑い大阪は「遠慮します」であって、大阪に遊びにおいでに対して「遠慮します」と断られたのではないだろうと、スマホの画面を見て固まった脳を何とか動かして解釈する。

 確かに文面に逃げ道を作ってあげたつもりだが、そこまで直行されると、少し腹も立つ。ならばストレートに「母の介護を全て私一人に任せっきりにしないで、1日くらいは代わってくれませんか。認知症を発症した頃の徘徊(はいかい)や警察沙汰の苦労話、だまして施設に入所させた私の心の愚痴を聴いてくれませんか。膨らむ介護費、来たる葬儀の相談もあります。いや一度で良いので母の面会に、大阪に来てくれませんか」と、メッセージを入れたら良かったのだろうか。

 あわててそんな意地悪な考えをブルンブルンと頭を振ってかき消す。この手の話は何度か姉としたものの、遠方に住んでいるため現実感がないからかピンとこないのか私と平行線になるだけだ。ここで姉と喧嘩(けんか)をしたいわけではない。それより今、私と母が直接手を握って関われることに気持ちを向け、感謝しよう。

 私からの「遊びにおいで」のように、姉の「遠慮します」にも私が感じ損ねた姉の深い想いがあるのかもしれない。実の2人姉妹。会う機会も少なく、お互い家庭もあり、踏み込めない領域が広がっていくことが一番寂しい。

「いつか、来てね」

 大丈夫。絆を信じてメッセージを送る。

辻幾子(55) 大阪府羽曳野市

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