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【夕焼けエッセー】どくだみ草 

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【夕焼けエッセー】
どくだみ草 

 どくだみの花が咲いている。おい茂る葉は、スペードの形だ。うす笑いした祖母の顔が頭に浮かぶ。

 私が小学生の頃、祖母は、庭に自生していたどくだみの葉を集めていた。近寄ると、「どくだみには触らん方がええ」と、ぶっきらぼうに言った。スペードの葉と白い十字の花を持つその草が、どくだみ草だということを、そのときに知った。

 祖母は台所を占領し、採ってきたどくだみの葉を、ぐつぐつと煮立てていた。何とも言えない、嫌な臭いが充満する。「くっさー。何この臭い!」。露骨に嫌な顔をすると、「そうやろ、臭いやろ。これが効くんや」。満足そうに笑う祖母は、いじわるな魔女のようだった。

 私の理想のお婆さんは、縁側に腰を下ろし、ネコを抱いて、ゆっくりお茶をすする、そんなのんびりした人だ。祖母は正反対だった。納得のいかないことがあると、私と祖母は、よく言い合いになった。

 戦後の物のない時代を生きた祖母は、とにかく贅沢(ぜいたく)を嫌った。自分で作った服を何年も着て、誇らしげであった。孫の靴下を勝手に繕い、喧嘩(けんか)になった。最後まで人の世話になることを嫌った。

 今、祖母は90歳を超え、施設でお世話になっている。医療処置が必要な体となり、望んだ在宅介護は叶(かな)わなくなってしまった。

 あんなにおしゃべりだったいじわるな魔女は、どこかへ行ってしまった。今目の前にいるのは、私の知っている祖母ではない。

 もうあのどくだみを煎じた魔女には会えないのかと思うと、少し寂しい。

佐竹加織(42) 大阪市住之江区

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