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【夕焼けエッセー】病気商店

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【夕焼けエッセー】
病気商店

 夫は十年ほど前から、病気の商店を開店した。どこから、仕入れてくるのか、数々の病気を仕入れては、病院へと売りに通うようになった。そして無事完売させ、帰宅する日々が続いている。

 第一、突発性難聴。

 左耳に蝉(せみ)を仕入れ連日、ジィ~と鳴かせる。蝉は七日どころか健在で住み続け売れ残った。

 第二、直腸癌(がん)。

 あっさり癌告知を受けガーン。テレビのワンシーンを見ているかのよう。仕入れ間違いじゃないのと、本人よりも私の方がぽろぽろと涙を流し、夫に慰められる始末。その後、夫は三日ほどでうまく売りさばき二度と仕入れまい。

 第三、狭心症。

 心臓の血管が狭窄(きょうさく)し、もう少しで心筋梗塞(こうそく)まで仕入れるところだった。血管にステントを挿入し、約一週間で売りさばく。

 第四、網膜剥離(はくり)。

 髪の毛のような黒い筋が見え、第三の狭心症から一か月もたたぬうちに、病院へ。売買交渉が難航し、またも三週間泊まり込み成立させた。

 第五、B型肝炎キャリア。

 早くも子どものころに、予防接種の注射針の回し打ちにより仕入れたらしい。訴訟にて国家賠償を受けるが、在庫を抱える羽目に。

 第六、肩の腱板損傷。

 五十肩のように、痛くて腕が上がらない。腱板が断裂する寸前を仕入れる。温存療法のリハビリという手段で交渉中である。

 第七、左耳失聴。

 以前からの左耳の蝉がのさばり、勢いを増した。

 あーっ、どんだけ仕入れるの。もう、仕入れなくていいよ。敏腕社長なのは分かった。そろそろ閉店しましょうよ。

後藤田郁子(57) 大阪府阪南市

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