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【石野伸子の読み直し浪花女】竹林の隠者・富士正晴(5)華麗なる一族「幾度目かの最期」の衝撃 そこで「贋・久坂葉子伝」

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【石野伸子の読み直し浪花女】
竹林の隠者・富士正晴(5)華麗なる一族「幾度目かの最期」の衝撃 そこで「贋・久坂葉子伝」

「16、7の娘に見えたり、30歳位の落ち着いた女性に見えたりした」と富士正晴が評した生前の久坂葉子(久坂葉子研究会提供) 「16、7の娘に見えたり、30歳位の落ち着いた女性に見えたりした」と富士正晴が評した生前の久坂葉子(久坂葉子研究会提供)

 書き終わりは31日午前2時。まさに死の当日の早朝に完成し、久坂はそれを文中にある通り、京都にいる恋人に手渡して神戸に戻り、自死を決行するのだ。

 死の連絡を受けた恋人はそれをもって通夜の席にかけつける。が、原稿にも登場する別の男(婚約者)の依頼で、母親の手に渡り、その夜のうちに富士に手渡された。混乱のうちの出来事で、遺族は原稿を読むいとまもなかったのだ。

 遺稿の中には、父親をはじめ家族にかんする手厳しい記述がある。合併号で初めて読んだ遺族は、これがそのまま発表されることに強い抵抗感を示す。

 そんな最中、合併号をみた文芸誌「新潮」から、「幾度目かの最期」の転載の話が寄せられる。華やかな経歴を持つ久坂の自殺は中央でも話題となっていたのだ。すったもんだの末、原稿は「新潮」5月号に掲載となる。しかし、久坂葉子の初めての著作となる遺稿集「久坂葉子作品集 女」(人文書院)の掲載は父親の反対で見送られることになった。

 さまざまな人が久坂に関心を寄せた。作品集を読んだ白洲正子が久坂のことを書きたいとの意向を示し、未発表の生原稿などが届けられたが、しばらくして「感心しません」と資料は返却されてきた。

 ほかにもいくつか出版計画が寄せられ、映画化の話なども出た。しかし、いずれもまとまらない。かつての「VIKING」の同人、島尾敏雄と前田純敬は相次いで短編を発表した。

 それらのさまざまな話に富士はかかわるが、事は富士の思い通りに運ばない。島尾らの作品は興味本位にしか思えず、久坂が命をかけて書いた遺稿は遺族からブレーキがかかったまま。「女」(人文書院)の次に出た遺作集「私はこんな女である」(和光社)には、家族に関する記述約10枚分が削除されて収録された。

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