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【夕焼けエッセー】一期一会

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【夕焼けエッセー】
一期一会

 この春、娘が大学進学で家を出た。世話をする相手がいなくなって、少々物足りないせいなのか、ふと植物を育ててみたくなった。

 思えば、30代半ばの頃にも同じような心境になったことがある。当時は父と2人暮らしで、友人の多くが母となり、私も自分を頼ってくれるものが欲しかったのだと思う。結局、目が行き届かず、幾つかの鉢植えを枯らしてしまった。

 そして、今度こそはと思いついたのは、朝顔だ。あの強い生命力なら私でも大丈夫そうだ。早速、種を買って来てポットにまいた。わくわくしながら何かを待つというのは、久々の新鮮な心持ちだ。やがて1つ2つと芽を出し始めた。

 ある朝、いつものように丹念に水やりをしている時だった。目の前で双葉がぱっと開いたのだ。半分くっついていた種のカラが弾ける微(かす)かな音さえ聞こえた気がした。もちろん、“気がした”だけだが、まるで挨拶をしてくれたようにも見えた。

 そういえば、昔、ヨガ教室で、植物も動物も潜在意識において皆つながっていると教わった。だとすると、これは耳ではなく、心の奥深くに直接届いた音なのかもしれない。いずれにせよ、一生に一度と言ってもいいほどの貴重な瞬間との出会いだ。

 植物は、愛情を注げば応えてくれるという。素直な娘のような朝顔の、美しく成長した姿を思い描きつつ、真心で育てていきたい。

大野多恵子(57) 兵庫県小野市

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