産経WEST

【夕焼けエッセー】父の文庫本

産経WEST 産経WEST

記事詳細

更新

【夕焼けエッセー】
父の文庫本

 毎日の通勤電車の中で、時にはスマホを触っていることもあるけれど、基本、 文庫本を読んでいる。

 先日、何冊か買い込んでいた本の在庫がなくなったので、一昨年亡くなった父の本棚から古い文庫本を引っ張り出し、通勤カバンに放り込んだ。

 電車の中で本を開くと、黄ばんだページに細かい文字がぎっしり並んでいた。その途端、文字が歪(ゆが)んで読めなくなった。満員電車にもかかわらず、思わず涙があふれていた。

 今、書店で売られてる文庫本は、文字が大きく行間も広い。読みやすいといえばそうなのだが、『上下巻に分ける必要ある?』と思うようなものもある。しかし、父が読んでいた頃の文庫本は、こんなにも文字が小さく、一冊の中に物語がたくさん詰め込まれていた。

 ひと昔前の小さな本の中に、父の生きた時代を感じ、少し背中を丸めて本に目を落としている父の姿が思い出された。

 「この本棚の本は、若い頃に読んだものだが、お前も読んでみるといいよ。いい作品ばかりだ。」父のおすすめの本たちが、本棚に並んでいる。父が生きていれば、お互いの感想を語り合えただろうに、と今更ながらに考える。

西山 和心(かずみ) (53) 大阪市住吉区

「産経WEST」のランキング