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【夕焼けエッセー】腫瘍

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【夕焼けエッセー】
腫瘍

 家内の下腹には2つ、3つのでかい腫瘍(しゅよう)が目立つ。昨年11月には、たった5センチにも満たないできものだった。さほど痛みも訴えずただの腫物に思っていたが、それが個々20センチを超える悪性腫瘍癌である。

 病院の先生はあらゆる手段を使い、対処してくれてはいるものの効果は出ていない。入退院を繰り返し、今は病床にいる。

 家に帰りたい、帰りたいと懇願する家内。毎日面会には来ているものの、私には何もできない。彼女を癒やす手立ては、季節のフルーツ、一口の焼きそばや、タコ焼き、冷麺を食べさせるだけ。忌々しい腫瘍に手をあてて、消滅を祈るのみである。

 妄想も入って家と病室の区別や、朝夕を間違える。立つこともままならないのに、テーブルを片付けると言う。

 過去、早期胃癌を克服し、その後、解離(かいり)性くも膜下出血から後遺症も無く奇跡的な生還をした強運の家内。

 夜の面会時間が終る頃、帰るぞと言うと、私も帰ると言う。そんな時、今まで行った旅行の話、西国、四国巡礼、北海道のスキー、八重山、佐渡島等の話を出す。完治したら、どこへ行こうかと聞く。

 どこへ行こうかな~。うちわであおげば、痛み止めの薬が効いてきたのか、目がうつろになっている。何時の日かの治癒を夢見て、おやすみ。

徳山吉令 (67) 大阪府八尾市

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